さるちゃんのズバッと結論
「年金はもらえなくなる」——この前提が、まず間違っている。厚生労働省の令和6年財政検証では、最も厳しい「過去30年投影ケース」でも、給付水準の調整が終わったあとの所得代替率は50.4%。ゼロになる試算はどこにもない。積立金も、財源全体の1割前後を占めるにすぎない補助的な存在だ。ただし下がり方は均等じゃない。削られるのは主に基礎年金のほうで、そこがこの話の本当の急所なんだ。

どうも、金融IT企業でエンジニアをやってるサル、さるちゃんです。数字とシステムの世界で生きている。

「年金なんてどうせもらえない」。この言葉、SNSでも飲み会でも定番だよね。でも、そう言っている人に「じゃあ何年後にいくらになる見込みなの?」と聞くと、ほぼ誰も答えられない。不安の中身が数字になっていないんだ。

遠回しはナシだ。ズバッといくよ。この記事では、厚生労働省の令和6(2024)年財政検証、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用実績、そしてOECDの国際比較という3つの一次データを使って、「破綻論」でよく語られる3つの誤解を数字で潰していく。安心させるためでも、煽るためでもない。不安の輪郭を、正しいサイズにするためだ。

結論:起きるのは「支給停止」ではなく「水準の低下」

先に答えを置く。公表資料から読み取れることは、こうだ。

  • 年金がゼロになる、支給が止まるというシナリオは、公的な試算のどのケースにも存在しない
  • 起きると試算されているのは「所得代替率(現役世代の手取り賃金に対する年金額の比率)の低下」。2024年度の61.2%が、最も厳しいケースでも50.4%という見通し
  • ただし「水準が下がる」は決して軽い話ではない。特に基礎年金部分の目減りが大きく、これが本当の論点

つまり「破綻するかどうか」は論点として的外れで、正しい問いは「どのくらい下がるのか、その下がり方は誰にいちばん効くのか」だ。ひとつずつ見ていく。

誤解①「積立金が尽きたら終わり」——積立金は財源の1割前後

いちばん多い誤解がこれ。「年金の積立金があと○年でなくなる」という話を聞いたことがある人は多いと思う。

でも、そもそも日本の公的年金は積立方式ではない。厚労省の資料にはこう書かれている。年金給付は「賦課方式」——そのときの現役世代の保険料でその時点の高齢者の年金を賄う仕組み——を基本としつつ、一定の積立金を保有して補助的に活用する財政方式だ、と。

どのくらい「補助的」なのか。財政検証では、今後およそ100年間の財源を2024年度の価格に換算して示している。

年金の財源は「保険料+税」が9割。積立金は1割前後しかない今後およそ100年間の財源を2024年度価格に換算した一時金(令和6年財政検証)成長型経済移行・継続ケース(合計 約2,250兆円)70%1,570兆円23%510兆円8%170兆円過去30年投影ケース(合計 約2,310兆円)65%1,510兆円22%500兆円13%300兆円保険料収入国庫負担(税金)積立金(取り崩し+運用収入)※厚生年金と国民年金の合計。厚労省資料は四捨五入のため、内訳の合計は公表総額と一致しない場合がある。出典:厚生労働省「令和6(2024)年財政検証関連資料」公的年金の財源と給付の内訳(運用利回りによる一時金換算)

成長型経済移行・継続ケースでは、財源の内訳はこうなる(厚生年金+国民年金)。

  • 保険料収入:1,570兆円(約7割)
  • 国庫負担(税金):510兆円(約2割)
  • 積立金の取り崩し+運用収入:170兆円(約1割弱)

経済前提が厳しい「過去30年投影ケース」でも、積立金の比率は13%程度にとどまる。積立金が消えたら年金も消える、という構造になっていないんだ。主な財源は、いま働いている人が納める保険料と、税金だ。

ついでに、その積立金の現状も見ておこう。GPIFの2026年度第1四半期の公表資料によると、運用資産額は317兆7,596億円(2026年6月末時点)。2001年度の市場運用開始以降の累積収益額は+221兆201億円で、年率にすると+4.95%。うち利子・配当収入だけで63兆3,662億円が積み上がっている。

もちろん、これは時価評価なので市場次第で増減する。四半期単位で見れば大きなマイナスの期もあった。「常に増える」と言いたいわけじゃない。ただ「積立金が枯渇寸前だから年金が危ない」という話は、少なくとも現在の公表数値とは噛み合っていない。

さるちゃんの本音
「積立金があと何年で尽きる」という話、ボクはずっと違和感があった。財源の1割弱の項目を、制度全体の寿命みたいに語っているからだ。これは家計に例えると、毎月の給料(保険料)と児童手当(国庫負担)で暮らしている家に対して、「貯金が減ってるから破産する」と言っているようなもの。貯金の話は大事だけど、それは家計の主役じゃないんだよね。

誤解②「将来ゼロになる」——試算では最悪でも50.4%

次はこれ。じゃあ実際、いくらになる見込みなのか。

ここで使われる物差しが所得代替率だ。定義は「モデル年金(夫婦2人の基礎年金+夫の報酬比例部分)÷ 現役男子の平均手取り賃金」。2024年度の実績値は61.2%。現役世代の手取り37.0万円に対して、モデル年金が22.6万円という関係になる。

所得代替率の見通し:下がるが「ゼロ」にはならないモデル年金(夫婦の基礎年金+夫の報酬比例)÷現役男子の平均手取り賃金20%40%50%60%70%61.2%2024年度(現在)57.6%基礎 32.6%比例 25.0%成長型ケース2037年度以降50.4%基礎 25.5%比例 24.9%過去30年投影ケース2057年度以降50%ライン(法律上の点検基準)※平成16年改正法附則により、次の財政検証までに50%を下回ると見込まれる場合は給付と負担の在り方を検討し所要の措置を講ずると定められている。出典:厚生労働省「令和6(2024)年財政検証関連資料」/ 厚生労働省「年金制度の仕組みと考え方 第5」

令和6年財政検証が示した見通しは次のとおり。

経済前提のケース給付水準の調整が終わる年度調整終了後の所得代替率内訳(基礎/報酬比例)
2024年度(実績)—61.2%—
成長型経済移行・継続ケース2037年度57.6%基礎32.6% / 比例25.0%
過去30年投影ケース2057年度(基礎年金)50.4%基礎25.5% / 比例24.9%

厚生労働省「令和6(2024)年財政検証関連資料」より。人口は出生中位・死亡中位、外国人の入国超過数16.4万人の前提。

いちばん厳しい「過去30年投影ケース」——過去30年の日本経済がこの先も続くと置いた前提——でも、調整が終わった時点で50.4%という試算になっている。ゼロではないし、半減でもない。

なぜ50%付近で下げ止まる形になっているかというと、法律にそう書いてあるからだ。平成16(2004)年の改正法の附則で、次の財政検証までの間に所得代替率が50%を下回ると見込まれる場合には、給付水準の調整を終了し、給付と負担の在り方について検討して所要の措置を講ずると定められている。5年に1度の財政検証は、この点検のために行われている。

この「50%」は、放っておいても自動的に守られる保証ではない。下回りそうになったら国会と政府が何かを決める、という約束だ。何を決めるかは書かれていない。そこは正直に言っておく。

誤解③「日本の年金は世界一ひどい」——比べるなら定義に注意

3つめは国際比較の話。ここが今日いちばん伝えたいところかもしれない。

OECDが2025年11月に公表した「Pensions at a Glance 2025」では、各国の純所得代替率(net pension replacement rate)——平均賃金の労働者が満年数加入した場合の、手取り賃金に対する手取り年金の比率——を比較している。

OECD基準の純所得代替率:日本は42.4%でOECD平均を20.8pt下回る平均賃金の労働者が満年数加入した場合の、手取り賃金に対する手取り年金の比率(公的+強制的な私的年金)イタリア79.0%フランス70.0%EU27平均68.3%OECD平均63.2%イギリス54.2%ドイツ53.3%アメリカ51.3%カナダ45.1%日本42.4%韓国38.9%OECD平均 63.2%※この数値は厚労省の「所得代替率61.2%」とは定義が異なる(比較する賃金と世帯の取り方が違う)。単純に並べて比較しないこと。出典:OECD「Pensions at a Glance 2025」Table 4.4 Net pension replacement rates by earnings(2025年11月公表)

日本は42.4%。OECD平均の63.2%を20.8ポイント下回り、EU27平均68.3%とはさらに差が開く。イタリア79.0%、フランス70.0%と比べると見劣りするし、アメリカ51.3%、ドイツ53.3%、イギリス54.2%よりも低い。日本より低いのは、この抜粋のなかでは韓国38.9%だけだ。

ここで多くの記事がやらかす。「厚労省は61.2%と言っているのに、OECDでは42.4%。国が嘘をついている」という書き方だ。これは違う。定義が別物なんだ。

  • 厚労省の61.2%:分子は「夫婦2人の基礎年金+夫の報酬比例」、分母は「現役男子の平均手取り賃金」。2人分の年金を1人分の賃金で割っている
  • OECDの42.4%:個人ベース。平均賃金の労働者1人が満年数加入した場合の、その人の手取り年金 ÷ 手取り賃金

世帯単位か個人単位かという、いちばん効く部分が違う。だから61.2%と42.4%を並べて「20ポイントごまかしている」と言うのは、単位を無視した比較になる。どちらの数字も、それぞれの定義の中では正しい。

ただし、OECDの数字が意味を持たないわけでもない。同じ物差しで各国を並べたときに日本が下位グループにいるという事実は動かない。これは「破綻するかどうか」とは別の、まっとうな論点だ。

じゃあ、本当の問題はどこにあるのか

ここまでの数字を踏まえて、事実と解釈を分けて整理する。

よく言われること公表データで確認できること
積立金が尽きたら年金は止まる積立金は財源の1割前後。主財源は保険料(約7割)と国庫負担(約2割)。制度は賦課方式が基本
将来は年金がゼロになる最も厳しいケースでも調整終了後の所得代替率は50.4%の試算。ゼロになる公的試算はない
国が数字をごまかしている厚労省61.2%(世帯ベース)とOECD42.4%(個人ベース)は定義が異なる。どちらも定義内では正しい
いまの若者は払い損財政検証では、2024年度に20歳の世代でも66歳10か月まで就労し繰下げ受給を選べば、現在の61.2%と同水準を確保できると試算されている

そのうえで、ボクが本当の論点だと考えているのはここだ(以下は解釈)。

過去30年投影ケースの内訳をもう一度見てほしい。所得代替率50.4%の内訳は基礎25.5% / 報酬比例24.9%。いっぽう成長型ケースは基礎32.6% / 比例25.0%。報酬比例部分はほぼ変わらないのに、基礎年金だけが7ポイント以上削られている。

基礎年金は、自営業者・フリーランス・非正規雇用の人にとって年金の中心だ。つまり調整の負担が、もともと厚生年金の上乗せが薄い人ほど重くのしかかる構造になっている。財政検証の資料でも、この不均衡を是正するために「マクロ経済スライドの調整期間を基礎年金と報酬比例で一致させる」という案が検討され、実施すれば過去30年投影ケースで所得代替率が50.4%→56.2%(基礎25.5%→33.2%)に変わると試算されている。

「破綻するかどうか」を議論している間に、この配分の問題はあまり話題にならない。ズバッと言うけど、不安の向け先を間違えていると思う。制度が消えるかどうかではなく、削られ方が誰に偏っているか。そこが見るべきところだ。

数字を踏まえて、個人ができること

ここは制度の使い方の話だけをする。何に投資すべきといった話はしない。

  1. ねんきん定期便とねんきんネットで自分の数字を見る。所得代替率は「モデル世帯」の話であって、あなたの年金額ではない。加入記録と見込額は自分で確認するしかない
  2. 受給開始時期の選択肢を知っておく。財政検証でも、就労期間の延長と繰下げ受給を組み合わせた場合の試算が示されている。繰下げは増額される一方で、受け取り開始が遅くなる。健康状態や働き方によって有利不利が変わるので、一律の正解はない
  3. 厚生年金に入れる働き方かどうかを確認する。基礎年金だけの人と報酬比例が乗る人では、上で見たとおり調整の効き方が違う
  4. 私的年金・貯蓄の制度を「知っておく」。iDeCoやNISAは制度としての選択肢だが、向き不向きも手数料もある。詳しくはiDeCoの出口戦略、受け取り方で税金はどう変わる?やiDeCoの節税効果とは?知っておきたい注意点を参照してほしい

手取りがどう決まるかを整理したい人は可処分所得とは?額面の約15%が消える仕組みと手取りが増えない理由を、そもそも賃金が上がらない構造については実質賃金が上がらないのは日本だけ?G7諸国の賃金データを徹底比較を読むと、年金の話とつながる。

※本記事は公的資料の内容を整理したものであり、特定の金融商品の購入や運用方法を勧めるものではありません。個別の年金額・税額の判断は、日本年金機構や専門家にご確認ください。

よくある質問

Q. 年金の積立金は何年でなくなるのですか?

令和6年財政検証では、財政均衡期間の最終年度(2120年度)に積立金が残る前提で試算されている。成長型経済移行・継続ケースでは、報酬比例部分について積立金を全て使わなくても足下の給付水準を維持でき、2120年度に約130兆円(2024年度価格)が残ると注記されている。「あと○年で枯渇する」という前提の試算ではない。

Q. 所得代替率が50%を下回ったらどうなりますか?

平成16年改正法の附則により、次の財政検証までの間に50%を下回ると見込まれる場合は、給付水準の調整を終了したうえで、給付と負担の在り方について検討し所要の措置を講ずることとされている。具体的に何をするかは法律に書かれておらず、その時点の政策判断になる。「50%が自動的に保証されている」わけではない点は誤解しないでほしい。

Q. 保険料はこれからも上がり続けるのですか?

厚生年金の保険料率は2017年9月以降18.3%で固定されている。財政検証の資料でも「保険料固定により不変」として試算が組まれている。将来の制度改正で変わる可能性は否定できないが、現行の枠組みは保険料を固定し、給付側をマクロ経済スライドで調整する設計になっている。

Q. いまの20代は払い損になりますか?

財政検証は「損得」を計算する資料ではないため、断定はできない。ただし同資料には、2024年度に20歳の世代(2004年度生)が過去30年投影ケースの前提のもとで66歳10か月まで就労し繰下げ受給を選択すれば、2024年度の65歳世代と同じ所得代替率61.2%を確保できるという試算が示されている。前提が変われば結果も変わる点には注意してほしい。

まとめ

もう一度ズバッと。「年金がもらえなくなる」という前提の話は、公表データのどこにも根拠がない。積立金は財源の1割前後で、制度の柱は保険料と税。最も厳しい試算でも所得代替率は50.4%だ。

でも、だから安心しろとは言わない。削られ方は均等じゃない。過去30年投影ケースでは報酬比例が25.0%→24.9%とほぼ横ばいなのに対し、基礎年金は成長型ケースの32.6%に対して25.5%まで下がる。基礎年金が頼りの人ほど強く効く形になっている。

数字はウソをつかない。ウソをつくのは数字の見せ方だ。「破綻」という言葉は強くて分かりやすいけれど、それを使っている間は、本当に議論すべき配分の話にたどり着けない。まずは、ねんきん定期便を開いて自分の数字を見るところから始めてほしい。悩んでる時間がいちばんもったいない。

出典・参考データ

※本記事の数値は2026年9月時点で公表されている資料に基づきます。財政検証は5年ごと、GPIFの運用状況は四半期ごとに更新されます。制度は法改正により変更される場合があるため、最新情報は厚生労働省・日本年金機構・GPIFの公式サイトでご確認ください。

この記事を書いたサル: さるちゃん
金融ITの現場で働くエンジニア。基本情報技術者・簿記2級・証券外務員一種ほか、数字と制度を「ズバッと分かる」形に 翻訳するのが仕事。→ さるちゃんって何者?(プロフィール)

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