2026年09月

さるちゃんのズバッと結論
「国の借金1,346兆円、国民1人あたり1,095万円」——この見出し、主語がすり替わっている。借りているのは政府で、国債を持っている側(=貸し手)には日本の銀行・保険・年金、そして日本銀行が並ぶ。日銀だけで国債の47.9%を保有している。しかも利払費は平成2年度の11.2兆円に対し令和8年度が13.1兆円。債務が数倍になっても利払いは1.9兆円しか増えていない。ただし「だから問題ない」も同じくらい雑だ。効いてくるのは金利が上がったときで、そこが本当の論点なんだ。

どうも、金融IT企業でエンジニアをやってるサル、さるちゃんです。数字とシステムの世界で生きている。

四半期に一度、「国の借金が過去最大を更新」というニュースが流れる。そして毎回、SNSは「もう終わりだ」派と「借金じゃない、問題ない」派に真っ二つになる。どちらも、そのままでは間違いだ。

遠回しはナシだ。この記事では、財務省の残高統計、日本銀行の資金循環統計、令和8年度予算、そしてIMFの国際比較という4つの一次データを使って、「国の借金」をめぐる3つの誤解を数字で整理していく。安心させるためでも、煽るためでもない。不安の輪郭を、正しいサイズにするためだ。

結論:金額の大きさより「誰が持っているか」と「金利」を見る

先に答えを置く。公表データから言えることは、こうだ。

  • 2026年6月末時点のいわゆる「国の借金」は1,346兆6,833億円。前期末から2兆8,407億円増えて過去最大(財務省)
  • ただし国債の保有者は日本銀行が47.9%、海外は8.1%。国内で回っている構造は変わっていない(日本銀行「資金循環統計」)
  • 令和8年度予算の利払費等は13兆672億円。歳出全体の10.7%で、平成2年度の11.2兆円(約16.9%)から大きくは増えていない
  • 債務残高の対GDP比は204.4%(2026年推計)で主要先進国のなかで突出。ただしピークの2020年228.8%からは低下傾向(IMF)

つまり「借金が多いか少ないか」で言い合っても答えは出ない。正しい問いは「金利が上がったとき、この構造のどこが先に痛むのか」だ。ひとつずつ潰していく。

誤解①「国民1人あたり1,095万円の借金がある」

いちばん広まっている表現がこれ。総額を人口で割ると確かにその数字になるけれど、この割り算は、お金の流れの向きを逆に伝えてしまう。

借りているのは政府だ。では貸しているのは誰か。日本銀行の資金循環統計をもとにした財務省の集計(令和8年3月末・速報)を見ると、国債1,013兆7,559億円の保有者はこうなっている。

国債を持っているのは誰か:日銀が半分、海外は8.1%国債合計 1,013兆7,559億円(令和8年3月末・速報)。財投債を含む日本銀行 47.9%485兆4,280億円生損保等15.3%銀行等14.8%海外8.1%公的年金他※「他」は年金基金3.1%、家計2.0%、一般政府0.4%、その他1.2%同じ話を「向き」で描くと、こうなる政府国債を発行する側(借り手)利子を払う国債を持つ側(貸し手)日銀・銀行・保険・年金・海外家計も投資信託や預金を通じて間接的に保有している私たちの預金・年金・保険「1人あたり1,095万円の借金」という表現は、この矢印の向きを説明しない。家計は借り手ではなく、金融機関を通じて貸し手の側にも立っている。出典:財務省「国債等の保有者別内訳(令和8年3月末・速報)」、出所は日本銀行「資金循環統計」(令和8年6月25日公表)

日本銀行が485兆4,280億円(47.9%)で断トツ。次いで生損保等155兆3,280億円(15.3%)、銀行等149兆7,164億円(14.8%)、公的年金73兆4,456億円(7.2%)と続く。海外は82兆129億円で8.1%にとどまる。

ここで事実と解釈を分けておく。事実は「国債の9割超は国内で保有されている」こと。解釈としてよく言われるのが「だから外国に取り立てられることはない」という説明で、これは一面では正しい。ただし、国内で持たれていれば安全、という話にはならない。金利が上がれば、その損は国内の銀行・保険・年金が負う。次の論点はまさにそこだ。

なお、政府短期証券(国庫短期証券)まで含めると海外の保有割合は跳ね上がる。同じ資料では、国庫短期証券136兆2,991億円のうち海外が55.6%を持っている。短期の資金は国際的に動くので、ここは分けて見ておいたほうがいい。

誤解②「利払いが増えて、いずれ利払いだけで潰れる」

次の誤解。「借金が増え続けているから、利息の支払いだけで国家予算が食い潰される」というやつだ。これは方向としては正しいが、現状の数字とは合っていない。

令和8年度予算と、特例公債の発行から脱却できていた平成2年度予算を並べてみる。

項目平成2(1990)年度 当初予算令和8(2026)年度 予算差
一般会計 歳出総額66.2兆円122.3兆円+56.1兆円
国債費(元利払い合計)14.3兆円31.3兆円+17.0兆円
うち債務償還費3.1兆円18.2兆円+15.1兆円
うち利払費等11.2兆円13.1兆円+1.9兆円
歳出に占める利払費等の割合約16.9%10.7%▲6.2ポイント
社会保障関係費11.6兆円39.1兆円+27.4兆円
税収58.0兆円83.7兆円+25.7兆円

※金額は財務省「日本の財政関係資料(令和8年4月)」に掲載された比較図の数値(兆円単位)。「歳出に占める利払費等の割合」のうち令和8年度の10.7%は同資料の公表値、平成2年度の約16.9%は本記事で11.2兆円÷66.2兆円として算出した参考値。

ここ、ちゃんと見てほしい。債務残高はこの36年で大きく積み上がったのに、利払費は11.2兆円から13.1兆円へ、1.9兆円しか増えていない。歳出に占める割合はむしろ約16.9%から10.7%へ下がっている。

理由は単純で、その間に金利が大きく下がったからだ。残高が増えても、1円あたりに払う利息が下がれば、支払総額は抑えられる。逆に言えば——ここが本題なんだけど——この構造は金利が上がった瞬間に逆回転する。

増えたのは利払いではなく、社会保障と元本の償還一般会計歳出の内訳比較(単位:兆円)平成2(1990)年度 当初予算 66.2兆円利払費等11.23.1社会保障11.6その他の歳出 39.3令和8(2026)年度 予算 122.3兆円利払費等13.1債務償還費18.2社会保障 39.1※右端はスペースの都合で「その他の歳出51.9兆円」を縮めて表示している。棒の長さは歳出総額に比例。利払費等 11.2 → 13.1兆円(+1.9) / 歳出比 約16.9% → 10.7%社会保障 11.6 → 39.1兆円(+27.4) — 増えた主因はこちら出典:財務省「日本の財政関係資料(令和8年4月)」令和8年度一般会計予算、平成2年度と令和8年度の比較

もう一つ、財政の見方でよく使われるプライマリーバランス(基礎的財政収支)にも触れておく。これは「利払いを除いた歳出を、税収などでどれだけ賄えているか」を見る指標だ。内閣府の中長期試算(令和8年1月22日)をもとに財務省が示した資料では、国・地方のプライマリーバランスは長く赤字が続いてきたものの、2026(令和8)年度には歳入と歳出がおおむねバランスする姿を実現する見込みとされている。

これも事実と解釈を分ける。事実は「政府の試算上、PBは均衡見込みという段階まで来ている」こと。解釈としては、PBが均衡しても利払い分だけ債務は増え続けるので、「均衡=債務が減る」ではない。ここを混ぜて語る議論が多い。

さるちゃんの本音
「国の借金」という言葉、そろそろやめないか。これは家計の借金とは仕組みが違う。家計は返済期限が来たら現金で返すしかないけど、政府は満期が来た国債を新しい国債に借り換えられる。だから比べるべきは「残高そのもの」じゃなく「毎年の利払いを税収で払えるか」だ。そして今の日本は、その利払いが歳出の10.7%。問題は残高じゃなく金利なんだよ。ニュースが毎回「過去最大」しか言わないのは、そのほうが分かりやすいからだ。分かりやすさに慣らされると、見るべき数字を見なくなる。

誤解③「世界一の借金大国だから、いつ破綻してもおかしくない」

3つ目。国際比較のデータを見ると、たしかに日本の水準は突出している。ただし「突出している」と「破綻が近い」は別の話なので、数字で確認しておく。

財務省がIMF「World Economic Outlook」(2026年4月)をもとにまとめた主要先進国の債務残高対GDP比は、次のとおり(一般政府ベース)。

国2019年2020年2024年2026年(推計)
日本206.3%228.8%214.5%204.4%
イタリア133.9%154.4%134.7%138.4%
米国108.8%132.6%122.3%125.8%
フランス98.2%114.9%113.2%118.4%
カナダ90.1%118.1%110.0%110.7%
英国84.9%104.8%99.9%103.6%
ドイツ58.7%68.0%62.2%64.6%
債務残高対GDP比:日本は突出。ただしピークアウトはしている2026年の推計値(一般政府ベース)。IMF「World Economic Outlook」2026年4月日本204.4%イタリア138.4%米国125.8%フランス118.4%カナダ110.7%英国103.6%ドイツ64.6%日本の推移: 2019年 206.3% → 2020年 228.8%(ピーク) → 2024年 214.5% → 2026年 204.4%出典:財務省「日本の財政関係資料(令和8年4月)」14.債務残高の国際比較(対GDP比)。原データはIMF WEO(2026年4月)

日本は204.4%で、2位のイタリア138.4%を大きく引き離している。財務省の同じ資料では、2024年の値で比較した172の国・地域のうち日本が最も高いと示されている。ここは事実として受け止めるしかない。

一方で見落とされがちなのが推移だ。コロナ対応で膨らんだ2020年の228.8%をピークに、2024年214.5%、2025年206.5%、2026年204.4%と4年連続で低下している。分母である名目GDPが伸びている影響が大きい。「毎年悪化し続けている」という前提の話は、少なくとも直近の数字とは合っていない。

もう一つ、日本の特徴として挙げられるのが対外的な資産の厚さだ。財務省の「本邦対外資産負債残高」によると、2025(令和7)年末時点の日本の対外純資産は561兆7,504億円(対外資産1,805兆6,342億円-対外負債1,243兆8,838億円)で、前年末比4.4%増、8年連続の増加となっている。なお国際的な順位については、中国とドイツに抜かれて3位に後退したと報じられている(時事通信ほか)。

ここも解釈を混ぜないでおく。対外純資産は政府ではなく日本全体(企業・家計・政府の合計)の対外的な資産と負債の差であって、政府の債務を直接返済できる原資ではない。「対外純資産があるから財政は大丈夫」という説明は、主体をすり替えている。ただし、通貨や国際収支の安定を評価するときに参照される数字ではある、というのが正確なところだ。

じゃあ、本当に見るべき論点は何か

誤解を3つ潰したところで、代わりに何を見ればいいのかを整理する。公表データから読み取れる論点は、この3つだ。

  1. 金利上昇のスピード。利払費が抑えられてきたのは低金利の産物だ。国債は満期のたびに借り換えられるので、金利が上がると、借り換えの進行に合わせて利払費がじわじわ増えていく。令和8年度の利払費等13兆672億円という数字は、この先の金利次第で意味が変わる
  2. 日銀が持つ47.9%の行方。中央銀行が国債の半分近くを保有する構造は、平時のものではない。保有をどう扱うかは金融政策の話であり、財政の話でもある
  3. 社会保障と歳出構造。平成2年度から令和8年度までで、社会保障関係費は11.6兆円から39.1兆円へ27.4兆円増えた。利払費の増加1.9兆円とは桁が違う。財政を動かしている主役は、利息ではなく社会保障だ

3つとも、「破綻するかどうか」という二択では扱えない話だ。年金の持続可能性を同じようにデータで見た記事は年金はもらえなくなる?所得代替率50.4%で破綻論をデータ検証に書いた。構造はよく似ていて、起きるのは「ゼロになること」ではなく「水準や負担の調整」だ。

家計として、どこを見ておけばいいか

「国の借金」のニュースを見たときに、家計の側でチェックする価値があるのは次の3つだと思う。

国際比較の目線をもう少し広げたい人は、実質賃金が上がらないのは日本だけ?G7諸国の賃金データを徹底比較や日本の物価は世界と比べて本当に安いのか?『安いニッポン』をデータで検証する国際比較も合わせて読むと、財政の話が生活の話につながって見えてくると思う。

※本記事は公的機関が公表している資料の内容を整理したものであり、特定の金融商品の購入や運用方法を勧めるものではありません。また将来の財政・金利・物価の動向を予測・保証するものでもありません。個別の判断は最新の一次資料や専門家にご確認ください。

よくある質問

Q. 「国の借金」1,346兆円には何が含まれているのですか?

財務省が四半期ごとに公表している「国債及び借入金並びに政府保証債務現在高」の合計額だ。令和8年6月末時点では合計1,346兆6,833億円で、内訳は内国債1,211兆7,466億円(うち普通国債1,110兆8,839億円、財政投融資特別会計国債88兆2,854億円)、借入金40兆5,374億円、政府短期証券94兆3,994億円。前期末から2兆8,407億円増えている。なお政府保証債務27兆4,346億円はこの合計には含まれない。

Q. 国民1人あたり約1,095万円の借金があるというのは本当ですか?

総額を人口で割ればその金額になるが、この表現は借り手と貸し手の関係を正しく伝えていない。国債を発行しているのは政府であり、家計は借り手ではない。国債の保有者内訳(令和8年3月末・速報)を見ると、日本銀行47.9%、生損保等15.3%、銀行等14.8%、公的年金7.2%などで、家計も預金・保険・年金を通じて間接的に貸し手の側に立っている。

Q. 日本の国債は外国に買われているのですか?

国債(財投債を含む)1,013兆7,559億円のうち、海外の保有は82兆129億円で8.1%。9割以上は国内で保有されている。ただし国庫短期証券(政府短期証券)136兆2,991億円については海外が55.6%を保有しており、短期と長期で構造が異なる点は分けて見る必要がある。

Q. 借金が増えているのに、なぜ利払費はあまり増えていないのですか?

金利が大きく低下したためである。令和8年度予算の利払費等は13兆672億円で、平成2年度当初予算の11.2兆円と比べて1.9兆円の増加にとどまる。歳出に占める割合はむしろ約16.9%から10.7%へ低下している。ただしこれは低金利を前提とした構造であり、金利が上昇すれば借り換えの進行に伴って利払費は増加していく。

Q. 債務残高の対GDP比は今も悪化し続けているのですか?

直近では低下している。IMF「World Economic Outlook」(2026年4月)をもとにした財務省資料では、日本の債務残高対GDP比は2020年の228.8%をピークに、2024年214.5%、2025年206.5%、2026年204.4%(推計)と推移している。ただし水準自体は主要先進国のなかで突出して高く、172の国・地域(2024年の値で比較)のなかで最も高い。

まとめ

もう一度ズバッと。「国の借金1,346兆円」は事実だが、「国民1人あたり1,095万円の借金」は誤解だ。借りているのは政府で、貸しているのは日銀・銀行・保険・年金——つまり大半が国内だ。海外の保有は8.1%にすぎない。

そして「だから問題ない」も同じくらい雑だと思う。利払費が抑えられてきたのは低金利という条件があったからで、条件が変われば結果も変わる。債務残高対GDP比204.4%が主要国で突出しているのも事実だ。

数字はウソをつかない。ウソをつくのは数字の切り取り方だ。「過去最大」も「1人あたり」も、聞いた瞬間に分かった気になれる便利な言葉だけれど、そこで思考が止まるようにできている。次にこのニュースを見たら、金額じゃなく「利払費が歳出の何%か」を探してみてほしい。そっちのほうが、自分の生活に効いてくる数字だ。悩んでる時間がいちばんもったいない。

出典・参考データ

※本記事の数値は2026年9月時点で公表されている資料に基づきます。残高統計は四半期ごと、予算は年度ごと、IMFの見通しは年2回程度更新されます。最新情報は財務省・日本銀行・内閣府の公式サイトでご確認ください。

この記事を書いたサル: さるちゃん
金融ITの現場で働くエンジニア。基本情報技術者・簿記2級・証券外務員一種ほか、数字と制度を「ズバッと分かる」形に翻訳するのが仕事。→ さるちゃんって何者?(プロフィール)

さるちゃんのズバッと結論
「年金はもらえなくなる」——この前提が、まず間違っている。厚生労働省の令和6年財政検証では、最も厳しい「過去30年投影ケース」でも、給付水準の調整が終わったあとの所得代替率は50.4%。ゼロになる試算はどこにもない。積立金も、財源全体の1割前後を占めるにすぎない補助的な存在だ。ただし下がり方は均等じゃない。削られるのは主に基礎年金のほうで、そこがこの話の本当の急所なんだ。

どうも、金融IT企業でエンジニアをやってるサル、さるちゃんです。数字とシステムの世界で生きている。

「年金なんてどうせもらえない」。この言葉、SNSでも飲み会でも定番だよね。でも、そう言っている人に「じゃあ何年後にいくらになる見込みなの?」と聞くと、ほぼ誰も答えられない。不安の中身が数字になっていないんだ。

遠回しはナシだ。ズバッといくよ。この記事では、厚生労働省の令和6(2024)年財政検証、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用実績、そしてOECDの国際比較という3つの一次データを使って、「破綻論」でよく語られる3つの誤解を数字で潰していく。安心させるためでも、煽るためでもない。不安の輪郭を、正しいサイズにするためだ。

結論:起きるのは「支給停止」ではなく「水準の低下」

先に答えを置く。公表資料から読み取れることは、こうだ。

  • 年金がゼロになる、支給が止まるというシナリオは、公的な試算のどのケースにも存在しない
  • 起きると試算されているのは「所得代替率(現役世代の手取り賃金に対する年金額の比率)の低下」。2024年度の61.2%が、最も厳しいケースでも50.4%という見通し
  • ただし「水準が下がる」は決して軽い話ではない。特に基礎年金部分の目減りが大きく、これが本当の論点

つまり「破綻するかどうか」は論点として的外れで、正しい問いは「どのくらい下がるのか、その下がり方は誰にいちばん効くのか」だ。ひとつずつ見ていく。

誤解①「積立金が尽きたら終わり」——積立金は財源の1割前後

いちばん多い誤解がこれ。「年金の積立金があと○年でなくなる」という話を聞いたことがある人は多いと思う。

でも、そもそも日本の公的年金は積立方式ではない。厚労省の資料にはこう書かれている。年金給付は「賦課方式」——そのときの現役世代の保険料でその時点の高齢者の年金を賄う仕組み——を基本としつつ、一定の積立金を保有して補助的に活用する財政方式だ、と。

どのくらい「補助的」なのか。財政検証では、今後およそ100年間の財源を2024年度の価格に換算して示している。

年金の財源は「保険料+税」が9割。積立金は1割前後しかない今後およそ100年間の財源を2024年度価格に換算した一時金(令和6年財政検証)成長型経済移行・継続ケース(合計 約2,250兆円)70%1,570兆円23%510兆円8%170兆円過去30年投影ケース(合計 約2,310兆円)65%1,510兆円22%500兆円13%300兆円保険料収入国庫負担(税金)積立金(取り崩し+運用収入)※厚生年金と国民年金の合計。厚労省資料は四捨五入のため、内訳の合計は公表総額と一致しない場合がある。出典:厚生労働省「令和6(2024)年財政検証関連資料」公的年金の財源と給付の内訳(運用利回りによる一時金換算)

成長型経済移行・継続ケースでは、財源の内訳はこうなる(厚生年金+国民年金)。

  • 保険料収入:1,570兆円(約7割)
  • 国庫負担(税金):510兆円(約2割)
  • 積立金の取り崩し+運用収入:170兆円(約1割弱)

経済前提が厳しい「過去30年投影ケース」でも、積立金の比率は13%程度にとどまる。積立金が消えたら年金も消える、という構造になっていないんだ。主な財源は、いま働いている人が納める保険料と、税金だ。

ついでに、その積立金の現状も見ておこう。GPIFの2026年度第1四半期の公表資料によると、運用資産額は317兆7,596億円(2026年6月末時点)。2001年度の市場運用開始以降の累積収益額は+221兆201億円で、年率にすると+4.95%。うち利子・配当収入だけで63兆3,662億円が積み上がっている。

もちろん、これは時価評価なので市場次第で増減する。四半期単位で見れば大きなマイナスの期もあった。「常に増える」と言いたいわけじゃない。ただ「積立金が枯渇寸前だから年金が危ない」という話は、少なくとも現在の公表数値とは噛み合っていない。

さるちゃんの本音
「積立金があと何年で尽きる」という話、ボクはずっと違和感があった。財源の1割弱の項目を、制度全体の寿命みたいに語っているからだ。これは家計に例えると、毎月の給料(保険料)と児童手当(国庫負担)で暮らしている家に対して、「貯金が減ってるから破産する」と言っているようなもの。貯金の話は大事だけど、それは家計の主役じゃないんだよね。

誤解②「将来ゼロになる」——試算では最悪でも50.4%

次はこれ。じゃあ実際、いくらになる見込みなのか。

ここで使われる物差しが所得代替率だ。定義は「モデル年金(夫婦2人の基礎年金+夫の報酬比例部分)÷ 現役男子の平均手取り賃金」。2024年度の実績値は61.2%。現役世代の手取り37.0万円に対して、モデル年金が22.6万円という関係になる。

所得代替率の見通し:下がるが「ゼロ」にはならないモデル年金(夫婦の基礎年金+夫の報酬比例)÷現役男子の平均手取り賃金20%40%50%60%70%61.2%2024年度(現在)57.6%基礎 32.6%比例 25.0%成長型ケース2037年度以降50.4%基礎 25.5%比例 24.9%過去30年投影ケース2057年度以降50%ライン(法律上の点検基準)※平成16年改正法附則により、次の財政検証までに50%を下回ると見込まれる場合は給付と負担の在り方を検討し所要の措置を講ずると定められている。出典:厚生労働省「令和6(2024)年財政検証関連資料」/ 厚生労働省「年金制度の仕組みと考え方 第5」

令和6年財政検証が示した見通しは次のとおり。

経済前提のケース給付水準の調整が終わる年度調整終了後の所得代替率内訳(基礎/報酬比例)
2024年度(実績)—61.2%—
成長型経済移行・継続ケース2037年度57.6%基礎32.6% / 比例25.0%
過去30年投影ケース2057年度(基礎年金)50.4%基礎25.5% / 比例24.9%

厚生労働省「令和6(2024)年財政検証関連資料」より。人口は出生中位・死亡中位、外国人の入国超過数16.4万人の前提。

いちばん厳しい「過去30年投影ケース」——過去30年の日本経済がこの先も続くと置いた前提——でも、調整が終わった時点で50.4%という試算になっている。ゼロではないし、半減でもない。

なぜ50%付近で下げ止まる形になっているかというと、法律にそう書いてあるからだ。平成16(2004)年の改正法の附則で、次の財政検証までの間に所得代替率が50%を下回ると見込まれる場合には、給付水準の調整を終了し、給付と負担の在り方について検討して所要の措置を講ずると定められている。5年に1度の財政検証は、この点検のために行われている。

この「50%」は、放っておいても自動的に守られる保証ではない。下回りそうになったら国会と政府が何かを決める、という約束だ。何を決めるかは書かれていない。そこは正直に言っておく。

誤解③「日本の年金は世界一ひどい」——比べるなら定義に注意

3つめは国際比較の話。ここが今日いちばん伝えたいところかもしれない。

OECDが2025年11月に公表した「Pensions at a Glance 2025」では、各国の純所得代替率(net pension replacement rate)——平均賃金の労働者が満年数加入した場合の、手取り賃金に対する手取り年金の比率——を比較している。

OECD基準の純所得代替率:日本は42.4%でOECD平均を20.8pt下回る平均賃金の労働者が満年数加入した場合の、手取り賃金に対する手取り年金の比率(公的+強制的な私的年金)イタリア79.0%フランス70.0%EU27平均68.3%OECD平均63.2%イギリス54.2%ドイツ53.3%アメリカ51.3%カナダ45.1%日本42.4%韓国38.9%OECD平均 63.2%※この数値は厚労省の「所得代替率61.2%」とは定義が異なる(比較する賃金と世帯の取り方が違う)。単純に並べて比較しないこと。出典:OECD「Pensions at a Glance 2025」Table 4.4 Net pension replacement rates by earnings(2025年11月公表)

日本は42.4%。OECD平均の63.2%を20.8ポイント下回り、EU27平均68.3%とはさらに差が開く。イタリア79.0%、フランス70.0%と比べると見劣りするし、アメリカ51.3%、ドイツ53.3%、イギリス54.2%よりも低い。日本より低いのは、この抜粋のなかでは韓国38.9%だけだ。

ここで多くの記事がやらかす。「厚労省は61.2%と言っているのに、OECDでは42.4%。国が嘘をついている」という書き方だ。これは違う。定義が別物なんだ。

  • 厚労省の61.2%:分子は「夫婦2人の基礎年金+夫の報酬比例」、分母は「現役男子の平均手取り賃金」。2人分の年金を1人分の賃金で割っている
  • OECDの42.4%:個人ベース。平均賃金の労働者1人が満年数加入した場合の、その人の手取り年金 ÷ 手取り賃金

世帯単位か個人単位かという、いちばん効く部分が違う。だから61.2%と42.4%を並べて「20ポイントごまかしている」と言うのは、単位を無視した比較になる。どちらの数字も、それぞれの定義の中では正しい。

ただし、OECDの数字が意味を持たないわけでもない。同じ物差しで各国を並べたときに日本が下位グループにいるという事実は動かない。これは「破綻するかどうか」とは別の、まっとうな論点だ。

じゃあ、本当の問題はどこにあるのか

ここまでの数字を踏まえて、事実と解釈を分けて整理する。

よく言われること公表データで確認できること
積立金が尽きたら年金は止まる積立金は財源の1割前後。主財源は保険料(約7割)と国庫負担(約2割)。制度は賦課方式が基本
将来は年金がゼロになる最も厳しいケースでも調整終了後の所得代替率は50.4%の試算。ゼロになる公的試算はない
国が数字をごまかしている厚労省61.2%(世帯ベース)とOECD42.4%(個人ベース)は定義が異なる。どちらも定義内では正しい
いまの若者は払い損財政検証では、2024年度に20歳の世代でも66歳10か月まで就労し繰下げ受給を選べば、現在の61.2%と同水準を確保できると試算されている

そのうえで、ボクが本当の論点だと考えているのはここだ(以下は解釈)。

過去30年投影ケースの内訳をもう一度見てほしい。所得代替率50.4%の内訳は基礎25.5% / 報酬比例24.9%。いっぽう成長型ケースは基礎32.6% / 比例25.0%。報酬比例部分はほぼ変わらないのに、基礎年金だけが7ポイント以上削られている。

基礎年金は、自営業者・フリーランス・非正規雇用の人にとって年金の中心だ。つまり調整の負担が、もともと厚生年金の上乗せが薄い人ほど重くのしかかる構造になっている。財政検証の資料でも、この不均衡を是正するために「マクロ経済スライドの調整期間を基礎年金と報酬比例で一致させる」という案が検討され、実施すれば過去30年投影ケースで所得代替率が50.4%→56.2%(基礎25.5%→33.2%)に変わると試算されている。

「破綻するかどうか」を議論している間に、この配分の問題はあまり話題にならない。ズバッと言うけど、不安の向け先を間違えていると思う。制度が消えるかどうかではなく、削られ方が誰に偏っているか。そこが見るべきところだ。

数字を踏まえて、個人ができること

ここは制度の使い方の話だけをする。何に投資すべきといった話はしない。

  1. ねんきん定期便とねんきんネットで自分の数字を見る。所得代替率は「モデル世帯」の話であって、あなたの年金額ではない。加入記録と見込額は自分で確認するしかない
  2. 受給開始時期の選択肢を知っておく。財政検証でも、就労期間の延長と繰下げ受給を組み合わせた場合の試算が示されている。繰下げは増額される一方で、受け取り開始が遅くなる。健康状態や働き方によって有利不利が変わるので、一律の正解はない
  3. 厚生年金に入れる働き方かどうかを確認する。基礎年金だけの人と報酬比例が乗る人では、上で見たとおり調整の効き方が違う
  4. 私的年金・貯蓄の制度を「知っておく」。iDeCoやNISAは制度としての選択肢だが、向き不向きも手数料もある。詳しくはiDeCoの出口戦略、受け取り方で税金はどう変わる?やiDeCoの節税効果とは?知っておきたい注意点を参照してほしい

手取りがどう決まるかを整理したい人は可処分所得とは?額面の約15%が消える仕組みと手取りが増えない理由を、そもそも賃金が上がらない構造については実質賃金が上がらないのは日本だけ?G7諸国の賃金データを徹底比較を読むと、年金の話とつながる。

※本記事は公的資料の内容を整理したものであり、特定の金融商品の購入や運用方法を勧めるものではありません。個別の年金額・税額の判断は、日本年金機構や専門家にご確認ください。

よくある質問

Q. 年金の積立金は何年でなくなるのですか?

令和6年財政検証では、財政均衡期間の最終年度(2120年度)に積立金が残る前提で試算されている。成長型経済移行・継続ケースでは、報酬比例部分について積立金を全て使わなくても足下の給付水準を維持でき、2120年度に約130兆円(2024年度価格)が残ると注記されている。「あと○年で枯渇する」という前提の試算ではない。

Q. 所得代替率が50%を下回ったらどうなりますか?

平成16年改正法の附則により、次の財政検証までの間に50%を下回ると見込まれる場合は、給付水準の調整を終了したうえで、給付と負担の在り方について検討し所要の措置を講ずることとされている。具体的に何をするかは法律に書かれておらず、その時点の政策判断になる。「50%が自動的に保証されている」わけではない点は誤解しないでほしい。

Q. 保険料はこれからも上がり続けるのですか?

厚生年金の保険料率は2017年9月以降18.3%で固定されている。財政検証の資料でも「保険料固定により不変」として試算が組まれている。将来の制度改正で変わる可能性は否定できないが、現行の枠組みは保険料を固定し、給付側をマクロ経済スライドで調整する設計になっている。

Q. いまの20代は払い損になりますか?

財政検証は「損得」を計算する資料ではないため、断定はできない。ただし同資料には、2024年度に20歳の世代(2004年度生)が過去30年投影ケースの前提のもとで66歳10か月まで就労し繰下げ受給を選択すれば、2024年度の65歳世代と同じ所得代替率61.2%を確保できるという試算が示されている。前提が変われば結果も変わる点には注意してほしい。

まとめ

もう一度ズバッと。「年金がもらえなくなる」という前提の話は、公表データのどこにも根拠がない。積立金は財源の1割前後で、制度の柱は保険料と税。最も厳しい試算でも所得代替率は50.4%だ。

でも、だから安心しろとは言わない。削られ方は均等じゃない。過去30年投影ケースでは報酬比例が25.0%→24.9%とほぼ横ばいなのに対し、基礎年金は成長型ケースの32.6%に対して25.5%まで下がる。基礎年金が頼りの人ほど強く効く形になっている。

数字はウソをつかない。ウソをつくのは数字の見せ方だ。「破綻」という言葉は強くて分かりやすいけれど、それを使っている間は、本当に議論すべき配分の話にたどり着けない。まずは、ねんきん定期便を開いて自分の数字を見るところから始めてほしい。悩んでる時間がいちばんもったいない。

出典・参考データ

※本記事の数値は2026年9月時点で公表されている資料に基づきます。財政検証は5年ごと、GPIFの運用状況は四半期ごとに更新されます。制度は法改正により変更される場合があるため、最新情報は厚生労働省・日本年金機構・GPIFの公式サイトでご確認ください。

この記事を書いたサル: さるちゃん
金融ITの現場で働くエンジニア。基本情報技術者・簿記2級・証券外務員一種ほか、数字と制度を「ズバッと分かる」形に 翻訳するのが仕事。→ さるちゃんって何者?(プロフィール)

同じ「破綻論」を財政の側から検証した記事もあります。「国の借金1346兆円」は危険?IMF・日銀データで誤解を3つ整理では、債務残高1,346兆円という数字の中身と、利払費が平成2年度から1.9兆円しか増えていないという事実を扱っています。年金と財政は、どちらも「ゼロになるか」ではなく「どう調整されるか」が論点です。

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