経済

さるちゃんのズバッと結論
「国の借金1,346兆円、国民1人あたり1,095万円」——この見出し、主語がすり替わっている。借りているのは政府で、国債を持っている側(=貸し手)には日本の銀行・保険・年金、そして日本銀行が並ぶ。日銀だけで国債の47.9%を保有している。しかも利払費は平成2年度の11.2兆円に対し令和8年度が13.1兆円。債務が数倍になっても利払いは1.9兆円しか増えていない。ただし「だから問題ない」も同じくらい雑だ。効いてくるのは金利が上がったときで、そこが本当の論点なんだ。

どうも、金融IT企業でエンジニアをやってるサル、さるちゃんです。数字とシステムの世界で生きている。

四半期に一度、「国の借金が過去最大を更新」というニュースが流れる。そして毎回、SNSは「もう終わりだ」派と「借金じゃない、問題ない」派に真っ二つになる。どちらも、そのままでは間違いだ。

遠回しはナシだ。この記事では、財務省の残高統計、日本銀行の資金循環統計、令和8年度予算、そしてIMFの国際比較という4つの一次データを使って、「国の借金」をめぐる3つの誤解を数字で整理していく。安心させるためでも、煽るためでもない。不安の輪郭を、正しいサイズにするためだ。

結論:金額の大きさより「誰が持っているか」と「金利」を見る

先に答えを置く。公表データから言えることは、こうだ。

  • 2026年6月末時点のいわゆる「国の借金」は1,346兆6,833億円。前期末から2兆8,407億円増えて過去最大(財務省)
  • ただし国債の保有者は日本銀行が47.9%、海外は8.1%。国内で回っている構造は変わっていない(日本銀行「資金循環統計」)
  • 令和8年度予算の利払費等は13兆672億円。歳出全体の10.7%で、平成2年度の11.2兆円(約16.9%)から大きくは増えていない
  • 債務残高の対GDP比は204.4%(2026年推計)で主要先進国のなかで突出。ただしピークの2020年228.8%からは低下傾向(IMF)

つまり「借金が多いか少ないか」で言い合っても答えは出ない。正しい問いは「金利が上がったとき、この構造のどこが先に痛むのか」だ。ひとつずつ潰していく。

誤解①「国民1人あたり1,095万円の借金がある」

いちばん広まっている表現がこれ。総額を人口で割ると確かにその数字になるけれど、この割り算は、お金の流れの向きを逆に伝えてしまう

借りているのは政府だ。では貸しているのは誰か。日本銀行の資金循環統計をもとにした財務省の集計(令和8年3月末・速報)を見ると、国債1,013兆7,559億円の保有者はこうなっている。

国債を持っているのは誰か:日銀が半分、海外は8.1%国債合計 1,013兆7,559億円(令和8年3月末・速報)。財投債を含む日本銀行 47.9%485兆4,280億円生損保等15.3%銀行等14.8%海外8.1%公的年金※「他」は年金基金3.1%、家計2.0%、一般政府0.4%、その他1.2%同じ話を「向き」で描くと、こうなる政府国債を発行する側(借り手)利子を払う国債を持つ側(貸し手)日銀・銀行・保険・年金・海外家計も投資信託や預金を通じて間接的に保有している私たちの預金・年金・保険「1人あたり1,095万円の借金」という表現は、この矢印の向きを説明しない。家計は借り手ではなく、金融機関を通じて貸し手の側にも立っている。出典:財務省「国債等の保有者別内訳(令和8年3月末・速報)」、出所は日本銀行「資金循環統計」(令和8年6月25日公表)

日本銀行が485兆4,280億円(47.9%)で断トツ。次いで生損保等155兆3,280億円(15.3%)、銀行等149兆7,164億円(14.8%)、公的年金73兆4,456億円(7.2%)と続く。海外は82兆129億円で8.1%にとどまる。

ここで事実と解釈を分けておく。事実は「国債の9割超は国内で保有されている」こと。解釈としてよく言われるのが「だから外国に取り立てられることはない」という説明で、これは一面では正しい。ただし、国内で持たれていれば安全、という話にはならない。金利が上がれば、その損は国内の銀行・保険・年金が負う。次の論点はまさにそこだ。

なお、政府短期証券(国庫短期証券)まで含めると海外の保有割合は跳ね上がる。同じ資料では、国庫短期証券136兆2,991億円のうち海外が55.6%を持っている。短期の資金は国際的に動くので、ここは分けて見ておいたほうがいい。

誤解②「利払いが増えて、いずれ利払いだけで潰れる」

次の誤解。「借金が増え続けているから、利息の支払いだけで国家予算が食い潰される」というやつだ。これは方向としては正しいが、現状の数字とは合っていない

令和8年度予算と、特例公債の発行から脱却できていた平成2年度予算を並べてみる。

項目平成2(1990)年度 当初予算令和8(2026)年度 予算
一般会計 歳出総額66.2兆円122.3兆円+56.1兆円
国債費(元利払い合計)14.3兆円31.3兆円+17.0兆円
うち債務償還費3.1兆円18.2兆円+15.1兆円
うち利払費等11.2兆円13.1兆円+1.9兆円
歳出に占める利払費等の割合約16.9%10.7%▲6.2ポイント
社会保障関係費11.6兆円39.1兆円+27.4兆円
税収58.0兆円83.7兆円+25.7兆円

※金額は財務省「日本の財政関係資料(令和8年4月)」に掲載された比較図の数値(兆円単位)。「歳出に占める利払費等の割合」のうち令和8年度の10.7%は同資料の公表値、平成2年度の約16.9%は本記事で11.2兆円÷66.2兆円として算出した参考値。

ここ、ちゃんと見てほしい。債務残高はこの36年で大きく積み上がったのに、利払費は11.2兆円から13.1兆円へ、1.9兆円しか増えていない。歳出に占める割合はむしろ約16.9%から10.7%へ下がっている。

理由は単純で、その間に金利が大きく下がったからだ。残高が増えても、1円あたりに払う利息が下がれば、支払総額は抑えられる。逆に言えば——ここが本題なんだけど——この構造は金利が上がった瞬間に逆回転する

増えたのは利払いではなく、社会保障と元本の償還一般会計歳出の内訳比較(単位:兆円)平成2(1990)年度 当初予算 66.2兆円利払費等11.23.1社会保障11.6その他の歳出 39.3令和8(2026)年度 予算 122.3兆円利払費等13.1債務償還費18.2社会保障 39.1※右端はスペースの都合で「その他の歳出51.9兆円」を縮めて表示している。棒の長さは歳出総額に比例。利払費等 11.2 → 13.1兆円(+1.9) / 歳出比 約16.9% → 10.7%社会保障 11.6 → 39.1兆円(+27.4) — 増えた主因はこちら出典:財務省「日本の財政関係資料(令和8年4月)」令和8年度一般会計予算、平成2年度と令和8年度の比較

もう一つ、財政の見方でよく使われるプライマリーバランス(基礎的財政収支)にも触れておく。これは「利払いを除いた歳出を、税収などでどれだけ賄えているか」を見る指標だ。内閣府の中長期試算(令和8年1月22日)をもとに財務省が示した資料では、国・地方のプライマリーバランスは長く赤字が続いてきたものの、2026(令和8)年度には歳入と歳出がおおむねバランスする姿を実現する見込みとされている。

これも事実と解釈を分ける。事実は「政府の試算上、PBは均衡見込みという段階まで来ている」こと。解釈としては、PBが均衡しても利払い分だけ債務は増え続けるので、「均衡=債務が減る」ではない。ここを混ぜて語る議論が多い。

さるちゃんの本音
「国の借金」という言葉、そろそろやめないか。これは家計の借金とは仕組みが違う。家計は返済期限が来たら現金で返すしかないけど、政府は満期が来た国債を新しい国債に借り換えられる。だから比べるべきは「残高そのもの」じゃなく「毎年の利払いを税収で払えるか」だ。そして今の日本は、その利払いが歳出の10.7%。問題は残高じゃなく金利なんだよ。ニュースが毎回「過去最大」しか言わないのは、そのほうが分かりやすいからだ。分かりやすさに慣らされると、見るべき数字を見なくなる。

誤解③「世界一の借金大国だから、いつ破綻してもおかしくない」

3つ目。国際比較のデータを見ると、たしかに日本の水準は突出している。ただし「突出している」と「破綻が近い」は別の話なので、数字で確認しておく。

財務省がIMF「World Economic Outlook」(2026年4月)をもとにまとめた主要先進国の債務残高対GDP比は、次のとおり(一般政府ベース)。

2019年2020年2024年2026年(推計)
日本206.3%228.8%214.5%204.4%
イタリア133.9%154.4%134.7%138.4%
米国108.8%132.6%122.3%125.8%
フランス98.2%114.9%113.2%118.4%
カナダ90.1%118.1%110.0%110.7%
英国84.9%104.8%99.9%103.6%
ドイツ58.7%68.0%62.2%64.6%
債務残高対GDP比:日本は突出。ただしピークアウトはしている2026年の推計値(一般政府ベース)。IMF「World Economic Outlook」2026年4月日本204.4%イタリア138.4%米国125.8%フランス118.4%カナダ110.7%英国103.6%ドイツ64.6%日本の推移: 2019年 206.3% → 2020年 228.8%(ピーク) → 2024年 214.5% → 2026年 204.4%出典:財務省「日本の財政関係資料(令和8年4月)」14.債務残高の国際比較(対GDP比)。原データはIMF WEO(2026年4月)

日本は204.4%で、2位のイタリア138.4%を大きく引き離している。財務省の同じ資料では、2024年の値で比較した172の国・地域のうち日本が最も高いと示されている。ここは事実として受け止めるしかない。

一方で見落とされがちなのが推移だ。コロナ対応で膨らんだ2020年の228.8%をピークに、2024年214.5%、2025年206.5%、2026年204.4%と4年連続で低下している。分母である名目GDPが伸びている影響が大きい。「毎年悪化し続けている」という前提の話は、少なくとも直近の数字とは合っていない。

もう一つ、日本の特徴として挙げられるのが対外的な資産の厚さだ。財務省の「本邦対外資産負債残高」によると、2025(令和7)年末時点の日本の対外純資産は561兆7,504億円(対外資産1,805兆6,342億円-対外負債1,243兆8,838億円)で、前年末比4.4%増、8年連続の増加となっている。なお国際的な順位については、中国とドイツに抜かれて3位に後退したと報じられている(時事通信ほか)。

ここも解釈を混ぜないでおく。対外純資産は政府ではなく日本全体(企業・家計・政府の合計)の対外的な資産と負債の差であって、政府の債務を直接返済できる原資ではない。「対外純資産があるから財政は大丈夫」という説明は、主体をすり替えている。ただし、通貨や国際収支の安定を評価するときに参照される数字ではある、というのが正確なところだ。

じゃあ、本当に見るべき論点は何か

誤解を3つ潰したところで、代わりに何を見ればいいのかを整理する。公表データから読み取れる論点は、この3つだ。

  1. 金利上昇のスピード。利払費が抑えられてきたのは低金利の産物だ。国債は満期のたびに借り換えられるので、金利が上がると、借り換えの進行に合わせて利払費がじわじわ増えていく。令和8年度の利払費等13兆672億円という数字は、この先の金利次第で意味が変わる
  2. 日銀が持つ47.9%の行方。中央銀行が国債の半分近くを保有する構造は、平時のものではない。保有をどう扱うかは金融政策の話であり、財政の話でもある
  3. 社会保障と歳出構造。平成2年度から令和8年度までで、社会保障関係費は11.6兆円から39.1兆円へ27.4兆円増えた。利払費の増加1.9兆円とは桁が違う。財政を動かしている主役は、利息ではなく社会保障だ

3つとも、「破綻するかどうか」という二択では扱えない話だ。年金の持続可能性を同じようにデータで見た記事は年金はもらえなくなる?所得代替率50.4%で破綻論をデータ検証に書いた。構造はよく似ていて、起きるのは「ゼロになること」ではなく「水準や負担の調整」だ。

家計として、どこを見ておけばいいか

「国の借金」のニュースを見たときに、家計の側でチェックする価値があるのは次の3つだと思う。

国際比較の目線をもう少し広げたい人は、実質賃金が上がらないのは日本だけ?G7諸国の賃金データを徹底比較日本の物価は世界と比べて本当に安いのか?『安いニッポン』をデータで検証する国際比較も合わせて読むと、財政の話が生活の話につながって見えてくると思う。

※本記事は公的機関が公表している資料の内容を整理したものであり、特定の金融商品の購入や運用方法を勧めるものではありません。また将来の財政・金利・物価の動向を予測・保証するものでもありません。個別の判断は最新の一次資料や専門家にご確認ください。

よくある質問

Q. 「国の借金」1,346兆円には何が含まれているのですか?

財務省が四半期ごとに公表している「国債及び借入金並びに政府保証債務現在高」の合計額だ。令和8年6月末時点では合計1,346兆6,833億円で、内訳は内国債1,211兆7,466億円(うち普通国債1,110兆8,839億円、財政投融資特別会計国債88兆2,854億円)、借入金40兆5,374億円、政府短期証券94兆3,994億円。前期末から2兆8,407億円増えている。なお政府保証債務27兆4,346億円はこの合計には含まれない。

Q. 国民1人あたり約1,095万円の借金があるというのは本当ですか?

総額を人口で割ればその金額になるが、この表現は借り手と貸し手の関係を正しく伝えていない。国債を発行しているのは政府であり、家計は借り手ではない。国債の保有者内訳(令和8年3月末・速報)を見ると、日本銀行47.9%、生損保等15.3%、銀行等14.8%、公的年金7.2%などで、家計も預金・保険・年金を通じて間接的に貸し手の側に立っている。

Q. 日本の国債は外国に買われているのですか?

国債(財投債を含む)1,013兆7,559億円のうち、海外の保有は82兆129億円で8.1%。9割以上は国内で保有されている。ただし国庫短期証券(政府短期証券)136兆2,991億円については海外が55.6%を保有しており、短期と長期で構造が異なる点は分けて見る必要がある。

Q. 借金が増えているのに、なぜ利払費はあまり増えていないのですか?

金利が大きく低下したためである。令和8年度予算の利払費等は13兆672億円で、平成2年度当初予算の11.2兆円と比べて1.9兆円の増加にとどまる。歳出に占める割合はむしろ約16.9%から10.7%へ低下している。ただしこれは低金利を前提とした構造であり、金利が上昇すれば借り換えの進行に伴って利払費は増加していく。

Q. 債務残高の対GDP比は今も悪化し続けているのですか?

直近では低下している。IMF「World Economic Outlook」(2026年4月)をもとにした財務省資料では、日本の債務残高対GDP比は2020年の228.8%をピークに、2024年214.5%、2025年206.5%、2026年204.4%(推計)と推移している。ただし水準自体は主要先進国のなかで突出して高く、172の国・地域(2024年の値で比較)のなかで最も高い。

まとめ

もう一度ズバッと。「国の借金1,346兆円」は事実だが、「国民1人あたり1,095万円の借金」は誤解だ。借りているのは政府で、貸しているのは日銀・銀行・保険・年金——つまり大半が国内だ。海外の保有は8.1%にすぎない。

そして「だから問題ない」も同じくらい雑だと思う。利払費が抑えられてきたのは低金利という条件があったからで、条件が変われば結果も変わる。債務残高対GDP比204.4%が主要国で突出しているのも事実だ。

数字はウソをつかない。ウソをつくのは数字の切り取り方だ。「過去最大」も「1人あたり」も、聞いた瞬間に分かった気になれる便利な言葉だけれど、そこで思考が止まるようにできている。次にこのニュースを見たら、金額じゃなく「利払費が歳出の何%か」を探してみてほしい。そっちのほうが、自分の生活に効いてくる数字だ。悩んでる時間がいちばんもったいない。

出典・参考データ

※本記事の数値は2026年9月時点で公表されている資料に基づきます。残高統計は四半期ごと、予算は年度ごと、IMFの見通しは年2回程度更新されます。最新情報は財務省・日本銀行・内閣府の公式サイトでご確認ください。

この記事を書いたサル: さるちゃん
金融ITの現場で働くエンジニア。基本情報技術者・簿記2級・証券外務員一種ほか、数字と制度を「ズバッと分かる」形に翻訳するのが仕事。→ さるちゃんって何者?(プロフィール)

さるちゃんのズバッと結論
「年金はもらえなくなる」——この前提が、まず間違っている。厚生労働省の令和6年財政検証では、最も厳しい「過去30年投影ケース」でも、給付水準の調整が終わったあとの所得代替率は50.4%。ゼロになる試算はどこにもない。積立金も、財源全体の1割前後を占めるにすぎない補助的な存在だ。ただし下がり方は均等じゃない。削られるのは主に基礎年金のほうで、そこがこの話の本当の急所なんだ。

どうも、金融IT企業でエンジニアをやってるサル、さるちゃんです。数字とシステムの世界で生きている。

「年金なんてどうせもらえない」。この言葉、SNSでも飲み会でも定番だよね。でも、そう言っている人に「じゃあ何年後にいくらになる見込みなの?」と聞くと、ほぼ誰も答えられない。不安の中身が数字になっていないんだ。

遠回しはナシだ。ズバッといくよ。この記事では、厚生労働省の令和6(2024)年財政検証、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用実績、そしてOECDの国際比較という3つの一次データを使って、「破綻論」でよく語られる3つの誤解を数字で潰していく。安心させるためでも、煽るためでもない。不安の輪郭を、正しいサイズにするためだ。

結論:起きるのは「支給停止」ではなく「水準の低下」

先に答えを置く。公表資料から読み取れることは、こうだ。

  • 年金がゼロになる、支給が止まるというシナリオは、公的な試算のどのケースにも存在しない
  • 起きると試算されているのは「所得代替率(現役世代の手取り賃金に対する年金額の比率)の低下」。2024年度の61.2%が、最も厳しいケースでも50.4%という見通し
  • ただし「水準が下がる」は決して軽い話ではない。特に基礎年金部分の目減りが大きく、これが本当の論点

つまり「破綻するかどうか」は論点として的外れで、正しい問いは「どのくらい下がるのか、その下がり方は誰にいちばん効くのか」だ。ひとつずつ見ていく。

誤解①「積立金が尽きたら終わり」——積立金は財源の1割前後

いちばん多い誤解がこれ。「年金の積立金があと○年でなくなる」という話を聞いたことがある人は多いと思う。

でも、そもそも日本の公的年金は積立方式ではない。厚労省の資料にはこう書かれている。年金給付は「賦課方式」——そのときの現役世代の保険料でその時点の高齢者の年金を賄う仕組み——を基本としつつ、一定の積立金を保有して補助的に活用する財政方式だ、と。

どのくらい「補助的」なのか。財政検証では、今後およそ100年間の財源を2024年度の価格に換算して示している。

年金の財源は「保険料+税」が9割。積立金は1割前後しかない今後およそ100年間の財源を2024年度価格に換算した一時金(令和6年財政検証)成長型経済移行・継続ケース(合計 約2,250兆円)70%1,570兆円23%510兆円8%170兆円過去30年投影ケース(合計 約2,310兆円)65%1,510兆円22%500兆円13%300兆円保険料収入国庫負担(税金)積立金(取り崩し+運用収入)※厚生年金と国民年金の合計。厚労省資料は四捨五入のため、内訳の合計は公表総額と一致しない場合がある。出典:厚生労働省「令和6(2024)年財政検証関連資料」公的年金の財源と給付の内訳(運用利回りによる一時金換算)

成長型経済移行・継続ケースでは、財源の内訳はこうなる(厚生年金+国民年金)。

  • 保険料収入:1,570兆円(約7割)
  • 国庫負担(税金):510兆円(約2割)
  • 積立金の取り崩し+運用収入:170兆円(約1割弱)

経済前提が厳しい「過去30年投影ケース」でも、積立金の比率は13%程度にとどまる。積立金が消えたら年金も消える、という構造になっていないんだ。主な財源は、いま働いている人が納める保険料と、税金だ。

ついでに、その積立金の現状も見ておこう。GPIFの2026年度第1四半期の公表資料によると、運用資産額は317兆7,596億円(2026年6月末時点)。2001年度の市場運用開始以降の累積収益額は+221兆201億円で、年率にすると+4.95%。うち利子・配当収入だけで63兆3,662億円が積み上がっている。

もちろん、これは時価評価なので市場次第で増減する。四半期単位で見れば大きなマイナスの期もあった。「常に増える」と言いたいわけじゃない。ただ「積立金が枯渇寸前だから年金が危ない」という話は、少なくとも現在の公表数値とは噛み合っていない。

さるちゃんの本音
「積立金があと何年で尽きる」という話、ボクはずっと違和感があった。財源の1割弱の項目を、制度全体の寿命みたいに語っているからだ。これは家計に例えると、毎月の給料(保険料)と児童手当(国庫負担)で暮らしている家に対して、「貯金が減ってるから破産する」と言っているようなもの。貯金の話は大事だけど、それは家計の主役じゃないんだよね。

誤解②「将来ゼロになる」——試算では最悪でも50.4%

次はこれ。じゃあ実際、いくらになる見込みなのか。

ここで使われる物差しが所得代替率だ。定義は「モデル年金(夫婦2人の基礎年金+夫の報酬比例部分)÷ 現役男子の平均手取り賃金」。2024年度の実績値は61.2%。現役世代の手取り37.0万円に対して、モデル年金が22.6万円という関係になる。

所得代替率の見通し:下がるが「ゼロ」にはならないモデル年金(夫婦の基礎年金+夫の報酬比例)÷現役男子の平均手取り賃金20%40%50%60%70%61.2%2024年度(現在)57.6%基礎 32.6%比例 25.0%成長型ケース2037年度以降50.4%基礎 25.5%比例 24.9%過去30年投影ケース2057年度以降50%ライン(法律上の点検基準)※平成16年改正法附則により、次の財政検証までに50%を下回ると見込まれる場合は給付と負担の在り方を検討し所要の措置を講ずると定められている。出典:厚生労働省「令和6(2024)年財政検証関連資料」/ 厚生労働省「年金制度の仕組みと考え方 第5」

令和6年財政検証が示した見通しは次のとおり。

経済前提のケース給付水準の調整が終わる年度調整終了後の所得代替率内訳(基礎/報酬比例)
2024年度(実績)61.2%
成長型経済移行・継続ケース2037年度57.6%基礎32.6% / 比例25.0%
過去30年投影ケース2057年度(基礎年金)50.4%基礎25.5% / 比例24.9%

厚生労働省「令和6(2024)年財政検証関連資料」より。人口は出生中位・死亡中位、外国人の入国超過数16.4万人の前提。

いちばん厳しい「過去30年投影ケース」——過去30年の日本経済がこの先も続くと置いた前提——でも、調整が終わった時点で50.4%という試算になっている。ゼロではないし、半減でもない。

なぜ50%付近で下げ止まる形になっているかというと、法律にそう書いてあるからだ。平成16(2004)年の改正法の附則で、次の財政検証までの間に所得代替率が50%を下回ると見込まれる場合には、給付水準の調整を終了し、給付と負担の在り方について検討して所要の措置を講ずると定められている。5年に1度の財政検証は、この点検のために行われている。

この「50%」は、放っておいても自動的に守られる保証ではない。下回りそうになったら国会と政府が何かを決める、という約束だ。何を決めるかは書かれていない。そこは正直に言っておく。

誤解③「日本の年金は世界一ひどい」——比べるなら定義に注意

3つめは国際比較の話。ここが今日いちばん伝えたいところかもしれない。

OECDが2025年11月に公表した「Pensions at a Glance 2025」では、各国の純所得代替率(net pension replacement rate)——平均賃金の労働者が満年数加入した場合の、手取り賃金に対する手取り年金の比率——を比較している。

OECD基準の純所得代替率:日本は42.4%でOECD平均を20.8pt下回る平均賃金の労働者が満年数加入した場合の、手取り賃金に対する手取り年金の比率(公的+強制的な私的年金)イタリア79.0%フランス70.0%EU27平均68.3%OECD平均63.2%イギリス54.2%ドイツ53.3%アメリカ51.3%カナダ45.1%日本42.4%韓国38.9%OECD平均 63.2%※この数値は厚労省の「所得代替率61.2%」とは定義が異なる(比較する賃金と世帯の取り方が違う)。単純に並べて比較しないこと。出典:OECD「Pensions at a Glance 2025」Table 4.4 Net pension replacement rates by earnings(2025年11月公表)

日本は42.4%。OECD平均の63.2%を20.8ポイント下回り、EU27平均68.3%とはさらに差が開く。イタリア79.0%、フランス70.0%と比べると見劣りするし、アメリカ51.3%、ドイツ53.3%、イギリス54.2%よりも低い。日本より低いのは、この抜粋のなかでは韓国38.9%だけだ。

ここで多くの記事がやらかす。「厚労省は61.2%と言っているのに、OECDでは42.4%。国が嘘をついている」という書き方だ。これは違う。定義が別物なんだ。

  • 厚労省の61.2%:分子は「夫婦2人の基礎年金+夫の報酬比例」、分母は「現役男子の平均手取り賃金」。2人分の年金を1人分の賃金で割っている
  • OECDの42.4%:個人ベース。平均賃金の労働者1人が満年数加入した場合の、その人の手取り年金 ÷ 手取り賃金

世帯単位か個人単位かという、いちばん効く部分が違う。だから61.2%と42.4%を並べて「20ポイントごまかしている」と言うのは、単位を無視した比較になる。どちらの数字も、それぞれの定義の中では正しい。

ただし、OECDの数字が意味を持たないわけでもない。同じ物差しで各国を並べたときに日本が下位グループにいるという事実は動かない。これは「破綻するかどうか」とは別の、まっとうな論点だ。

じゃあ、本当の問題はどこにあるのか

ここまでの数字を踏まえて、事実と解釈を分けて整理する。

よく言われること公表データで確認できること
積立金が尽きたら年金は止まる積立金は財源の1割前後。主財源は保険料(約7割)と国庫負担(約2割)。制度は賦課方式が基本
将来は年金がゼロになる最も厳しいケースでも調整終了後の所得代替率は50.4%の試算。ゼロになる公的試算はない
国が数字をごまかしている厚労省61.2%(世帯ベース)とOECD42.4%(個人ベース)は定義が異なる。どちらも定義内では正しい
いまの若者は払い損財政検証では、2024年度に20歳の世代でも66歳10か月まで就労し繰下げ受給を選べば、現在の61.2%と同水準を確保できると試算されている

そのうえで、ボクが本当の論点だと考えているのはここだ(以下は解釈)。

過去30年投影ケースの内訳をもう一度見てほしい。所得代替率50.4%の内訳は基礎25.5% / 報酬比例24.9%。いっぽう成長型ケースは基礎32.6% / 比例25.0%報酬比例部分はほぼ変わらないのに、基礎年金だけが7ポイント以上削られている。

基礎年金は、自営業者・フリーランス・非正規雇用の人にとって年金の中心だ。つまり調整の負担が、もともと厚生年金の上乗せが薄い人ほど重くのしかかる構造になっている。財政検証の資料でも、この不均衡を是正するために「マクロ経済スライドの調整期間を基礎年金と報酬比例で一致させる」という案が検討され、実施すれば過去30年投影ケースで所得代替率が50.4%→56.2%(基礎25.5%→33.2%)に変わると試算されている。

「破綻するかどうか」を議論している間に、この配分の問題はあまり話題にならない。ズバッと言うけど、不安の向け先を間違えていると思う。制度が消えるかどうかではなく、削られ方が誰に偏っているか。そこが見るべきところだ。

数字を踏まえて、個人ができること

ここは制度の使い方の話だけをする。何に投資すべきといった話はしない。

  1. ねんきん定期便とねんきんネットで自分の数字を見る。所得代替率は「モデル世帯」の話であって、あなたの年金額ではない。加入記録と見込額は自分で確認するしかない
  2. 受給開始時期の選択肢を知っておく。財政検証でも、就労期間の延長と繰下げ受給を組み合わせた場合の試算が示されている。繰下げは増額される一方で、受け取り開始が遅くなる。健康状態や働き方によって有利不利が変わるので、一律の正解はない
  3. 厚生年金に入れる働き方かどうかを確認する。基礎年金だけの人と報酬比例が乗る人では、上で見たとおり調整の効き方が違う
  4. 私的年金・貯蓄の制度を「知っておく」。iDeCoやNISAは制度としての選択肢だが、向き不向きも手数料もある。詳しくはiDeCoの出口戦略、受け取り方で税金はどう変わる?iDeCoの節税効果とは?知っておきたい注意点を参照してほしい

手取りがどう決まるかを整理したい人は可処分所得とは?額面の約15%が消える仕組みと手取りが増えない理由を、そもそも賃金が上がらない構造については実質賃金が上がらないのは日本だけ?G7諸国の賃金データを徹底比較を読むと、年金の話とつながる。

※本記事は公的資料の内容を整理したものであり、特定の金融商品の購入や運用方法を勧めるものではありません。個別の年金額・税額の判断は、日本年金機構や専門家にご確認ください。

よくある質問

Q. 年金の積立金は何年でなくなるのですか?

令和6年財政検証では、財政均衡期間の最終年度(2120年度)に積立金が残る前提で試算されている。成長型経済移行・継続ケースでは、報酬比例部分について積立金を全て使わなくても足下の給付水準を維持でき、2120年度に約130兆円(2024年度価格)が残ると注記されている。「あと○年で枯渇する」という前提の試算ではない。

Q. 所得代替率が50%を下回ったらどうなりますか?

平成16年改正法の附則により、次の財政検証までの間に50%を下回ると見込まれる場合は、給付水準の調整を終了したうえで、給付と負担の在り方について検討し所要の措置を講ずることとされている。具体的に何をするかは法律に書かれておらず、その時点の政策判断になる。「50%が自動的に保証されている」わけではない点は誤解しないでほしい。

Q. 保険料はこれからも上がり続けるのですか?

厚生年金の保険料率は2017年9月以降18.3%で固定されている。財政検証の資料でも「保険料固定により不変」として試算が組まれている。将来の制度改正で変わる可能性は否定できないが、現行の枠組みは保険料を固定し、給付側をマクロ経済スライドで調整する設計になっている。

Q. いまの20代は払い損になりますか?

財政検証は「損得」を計算する資料ではないため、断定はできない。ただし同資料には、2024年度に20歳の世代(2004年度生)が過去30年投影ケースの前提のもとで66歳10か月まで就労し繰下げ受給を選択すれば、2024年度の65歳世代と同じ所得代替率61.2%を確保できるという試算が示されている。前提が変われば結果も変わる点には注意してほしい。

まとめ

もう一度ズバッと。「年金がもらえなくなる」という前提の話は、公表データのどこにも根拠がない。積立金は財源の1割前後で、制度の柱は保険料と税。最も厳しい試算でも所得代替率は50.4%だ。

でも、だから安心しろとは言わない。削られ方は均等じゃない。過去30年投影ケースでは報酬比例が25.0%→24.9%とほぼ横ばいなのに対し、基礎年金は成長型ケースの32.6%に対して25.5%まで下がる。基礎年金が頼りの人ほど強く効く形になっている。

数字はウソをつかない。ウソをつくのは数字の見せ方だ。「破綻」という言葉は強くて分かりやすいけれど、それを使っている間は、本当に議論すべき配分の話にたどり着けない。まずは、ねんきん定期便を開いて自分の数字を見るところから始めてほしい。悩んでる時間がいちばんもったいない。

出典・参考データ

※本記事の数値は2026年9月時点で公表されている資料に基づきます。財政検証は5年ごと、GPIFの運用状況は四半期ごとに更新されます。制度は法改正により変更される場合があるため、最新情報は厚生労働省・日本年金機構・GPIFの公式サイトでご確認ください。

この記事を書いたサル: さるちゃん
金融ITの現場で働くエンジニア。基本情報技術者・簿記2級・証券外務員一種ほか、数字と制度を「ズバッと分かる」形に 翻訳するのが仕事。→ さるちゃんって何者?(プロフィール)

同じ「破綻論」を財政の側から検証した記事もあります。「国の借金1346兆円」は危険?IMF・日銀データで誤解を3つ整理では、債務残高1,346兆円という数字の中身と、利払費が平成2年度から1.9兆円しか増えていないという事実を扱っています。年金と財政は、どちらも「ゼロになるか」ではなく「どう調整されるか」が論点です。

さるちゃんのズバッと結論
信託報酬が効くのは「率」じゃなくて「引かれ続ける期間」だ。0.1%という数字は小さく見えるけど、これは買ったときではなく、持っている間ずっと、残高全体にかかる。同じ条件で20年積み立てると、0.1%と0.2%で約10万円、0.1%と1.0%で約90万円の差が出る計算になる。数字はウソをつかない。ウソをつくのは数字の「見せ方」だ。

「信託報酬が0.1%と0.2%、たった0.1%の違いでしょ?」——投資信託を選ぶときに、いちばんよく聞くセリフだ。金融ITの現場で働くサル、さるちゃんです。今日はこの「たった0.1%」を、仕組みと計算で分解する。

先に断っておくと、この記事は特定の商品をすすめるものでも、投資を推奨するものでもない。コストという「確実に決まっている数字」が、長期でどう効くのかという仕組みの話だ。ここを理解しておくと、商品の選び方そのものが変わる。

信託報酬とは:買うときではなく「持っている間」の費用

まず定義から。投資信託協会の説明によれば、運用管理費用(信託報酬)は「投資信託を保有している間、投資信託の保有額に応じて日々支払う費用」で、投資信託の信託財産から間接的に支払われる。そして受け取るのは1社ではなく、運用会社・販売会社・信託銀行の3者で配分される

ここで大事なのは「間接的」という言葉だ。あなたの銀行口座から毎月引き落とされるわけではない。ファンドの財産そのものから日々差し引かれ、その結果が基準価額に反映される。だから請求書は来ないし、明細にも出てこない。払っている実感がまったく湧かないコスト、というのが信託報酬の本質だ。

コストがかかるタイミングは3種類ある 購入 換金 保有期間(何年でも) 購入時手数料 1回だけ・販売会社へ 信託財産留保額 1回だけ・信託財産へ 信託報酬(運用管理費用):保有中ずっと、日々、信託財産から間接的に 運用会社・販売会社・信託銀行の3者で配分される 出典:投資信託協会「投資信託のコスト」より作成

購入時手数料は買うときの1回だけ。信託財産留保額は換金するときの1回だけ(徴収しないファンドもある)。信託報酬だけが、保有している限り毎日ずっと続く。この時間軸の違いが、次に見る金額差を生む。

なぜ0.1%を無視できないのか

0.1%という数字が小さく見えるのは、たいてい「買った金額に対して1回だけかかる」とイメージしているからだ。100万円の0.1%なら1,000円。それなら誤差だと感じる。

でも実際は違う。信託報酬は毎年、そのときの残高全体に対してかかる。しかも運用がうまくいって残高が増えれば、かかる金額も増える。つまり資産が育つほど、差し引かれる絶対額も育つ

もうひとつ効くのが、複利の裏返しだ。引かれた分は再投資されないので、その分の将来の増加も同時に失われる。この「引かれなかったはずのお金が、増えなかったはずの分まで持っていく」構造が、年数とともに効いてくる。

単純に計算してみよう。毎年0.1%ずつ差し引かれる状態が20年続くと、複利で効いた累積の目減り率は 1 −(1 − 0.001)20 = 約1.98%。0.1%×20年=2.0%とほぼ同じに見えるが、これが0.75%になると 1 −(1 − 0.0075)20 = 約13.98%。単純計算の15%より小さいものの、資産の1割超が消える水準になる。

試算:月3万円を20年積み立てたら

ここからは具体的な金額で見る。前提条件を先に明記しておく

  • 毎月3万円を20年間(240か月)積み立てる。投資元本の合計は720万円
  • 信託報酬を引く前の年率リターンを3%と仮定し、毎月末に積立、月割りで複利計算する
  • 信託報酬は年率で、リターンから差し引く形で反映する
  • 税金、購入時手数料、売買委託手数料などは考慮していない
  • この年率3%はあくまで計算のための仮定であり、将来の運用成果を示すものでも、保証するものでもない

この前提で計算すると、こうなる。

信託報酬(年率)20年後の想定額0.1%との差元本720万円に対する差
0.1%約974万円
0.2%約964万円約10.5万円約1.5%
0.5%約933万円約41.3万円約5.7%
1.0%約884万円約89.8万円約12.5%
1.75%約818万円約156.7万円約21.8%
月3万円×20年・年率3%と仮定した場合の20年後(税金等は考慮せず) 投資元本 720万円 1000万 720万 0 974万 964万 933万 884万 818万 0.1% 0.2% 0.5% 1.0% 1.75% 信託報酬(年率) ※筆者試算。前提条件は本文に記載。将来の運用成果を示すものではありません

0.1%と0.2%の差は約10.5万円。「たった0.1%」が、20年で10万円を超える。0.1%と1.0%になると約90万円で、これは投資元本720万円の12.5%に相当する。3年分の積立額(108万円)に近い金額だ。

注意してほしいのは、この差は運用がうまくいくかどうかとは無関係に、ほぼ確実に発生するということ。リターンは予測できないが、コストは契約時点で決まっている。ここが「率の話」を軽く見てはいけない理由だ。

さるちゃんの本音
ボクが引っかかるのは、信託報酬が「年率0.1%」みたいな小さい単位で表示されることだ。同じ内容を「20年で10万円」と書けば、誰でも一瞬で意味がわかる。率で書くのは業界の慣行であって、あなたに分かりやすくするためじゃない。数字はウソをつかない。ウソをつくのは数字の見せ方だ。目論見書を開いたら、率のとなりに自分で「何年持つ予定か」を書き足してほしい。それだけで印象が変わる。

制度が引いた線:つみたて投資枠の上限

実は、この「コストが長期で効く」という発想は、制度そのものにも組み込まれている。金融庁がNISAのつみたて投資枠の対象商品に定めている要件を見ると、それがはっきり分かる。

金融庁の資料によれば、つみたて投資枠の対象となる公募株式投資信託には、次の要件が課されている(いずれも信託報酬は税抜)。

区分対象資産信託報酬(税抜)売買手数料
対象指数に連動するもの国内資産を対象0.5%以下ノーロード(解約手数料・口座管理料もゼロ)
海外資産を対象0.75%以下
対象指数に連動しないもの国内資産を対象1%以下同上。加えて純資産額50億円以上、信託開始から5年経過、信託期間の3分の2で資金流入超などの要件あり
海外資産を対象1.5%以下

さらに、対象商品には信託報酬等の実額を投資家へ通知することと、金融庁への届出が求められている。率だけでなく「いくら払ったか」を知らせる仕組みが要件になっている、ということだ。

金融庁が公表している一覧では、2026年8月18日時点のつみたて投資枠対象商品は363本(うち指定インデックス投資信託286本)。国内で販売されている投資信託の総数から見ればごく一部で、コスト要件が実質的なフィルターとして機能していることが読み取れる。

ここで先ほどの試算に戻ると、意味が立体的になる。指定インデックス投信の上限である海外資産0.75%と、実際に多くの低コスト商品が並ぶ0.1%台。同じ「制度の対象内」でも、20年ではこれだけの差が生まれうる、ということだ。制度の対象になっている=すべて同じコスト水準、ではない。この点は誤解されやすい。

制度そのものの整理は、NISA口座はどこで開くべき?仕組みで見る金融機関選びのポイントでも扱っている。金融機関によって取り扱う商品のラインナップが違うため、コストの選択肢そのものが変わる点は押さえておきたい。

信託報酬だけを見ればいい、わけではない

ここまで信託報酬の話をしてきたが、「信託報酬がいちばん低い商品を選べば必ず得」という単純な話にはならない。理由は3つある。

1つめ。信託報酬以外にもコストがある。投資信託協会は、監査報酬と売買委託手数料も信託財産から間接的に支払われると説明している。しかも売買委託手数料については「事前にいくらかかるのか示すことはできません」と明記されている。運用の中で実際に売買した結果として決まるため、あらかじめ確定できないからだ。つまり目論見書に載っている信託報酬は、あなたが負担する費用の全部ではない

2つめ。買い方によっては別のコストがかかる。購入時手数料は販売会社に直接支払う費用で、申込価額の数%が目安。ノーロードのファンドもあるが、同じファンドでも販売会社によって扱いが違うことがある。換金時の信託財産留保額は、販売会社が受け取るのではなく信託財産に留保される点が特徴だ。

3つめ。そもそも何に投資するかが違えば、コストは横並びで比べられない。投資対象も運用方針も違う商品同士で信託報酬だけを比べても意味がない。同じ指数に連動する商品同士を比べるときに、コストは強い判断材料になる。売買のたびに手数料がかかるETFとの比較については、投資信託とETFの違いは?コスト・売買・積立の3点を仕組みで整理で詳しく整理している。

なお、積立という買い方そのものの仕組みについてはドルコスト平均法とは?メリットと注意点をやさしく解説も参考にしてほしい。コストと買い方は、別々に理解しておいたほうが判断を誤りにくい。

よくある質問

Q. 信託報酬はどこで確認できますか?

目論見書(交付目論見書)や、運用会社・販売会社の公式サイトで確認できる。表示は年率で、税込・税抜のどちらで書かれているかも併せて見ておきたい。金融庁のつみたて投資枠の要件では税抜で上限が定められている。また、つみたて投資枠の対象商品には信託報酬等の実額を通知する義務があるため、保有後は運用報告書などで実際の負担額も確認できる。

Q. 信託報酬はいつ引かれるのですか?

投資信託協会の説明では、保有している間、保有額に応じて日々支払う費用とされている。信託財産から間接的に差し引かれるため、投資家の口座から別途引き落とされることはない。差し引かれた結果は基準価額に反映される。だから明細に出てこないし、実感も湧きにくい。

Q. 20年で90万円の差というのは確定した数字ですか?

確定した数字ではない。本文の試算は、信託報酬控除前の年率リターンを3%と仮定し、税金や購入時手数料を考慮しない前提で計算した一例だ。実際のリターンは変動し、元本割れの可能性もある。ただし「コストの差はリターンの結果にかかわらず発生する」という構造そのものは変わらない。金額の大小は前提次第でも、差が生じる方向は変わらないということだ。

Q. 信託報酬が低ければ低いほど良い商品ですか?

コストは重要な比較軸のひとつだが、それだけで良し悪しは決まらない。何に投資する商品なのか、どの指数に連動するのか、純資産額はどうか、といった点も併せて確認する必要がある。この記事は特定の商品を推奨するものではない。同じ投資対象・同じ方針の商品同士を比べるときに、コストが効いてくると理解しておきたい。

まとめ

もう一度整理する。信託報酬は保有している間ずっと、日々、残高全体から間接的に差し引かれる費用だ。だから「率が小さいから誤差」という感覚は、時間軸を無視している。

月3万円を20年、年率3%と仮定した試算では、0.1%と0.2%で約10.5万円、0.1%と1.0%で約90万円の差になった。前提が変われば金額も変わるが、差が生まれる構造は前提によらない。そしてリターンと違って、コストは買う前に確定している唯一の数字でもある。

目論見書を開いたら、信託報酬の率のとなりに「自分は何年持つつもりか」を書き足してみてほしい。それだけで、その数字の意味が変わって見えるはずだ。

出典・参考データ

※本記事は制度と仕組みの解説であり、特定の商品の購入や投資を推奨するものではありません。記載した試算は前提条件を置いた計算例であり、将来の運用成果を示すものでも保証するものでもありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。制度・手数料は改定される場合があるため、最新情報は各公式サイトでご確認ください。

この記事を書いたサル: さるちゃん
金融ITの現場で働くエンジニア。基本情報技術者・簿記2級・証券外務員一種ほか、働きながら資格を取ってきた実体験と、公式データをもとに「ズバッと分かる」解説をお届け。→ さるちゃんって何者?(プロフィール)

さるちゃんのズバッと結論
中身の考え方(たくさんの資産をまとめて持つ器)は同じ。違うのは「取引所に上場しているかどうか」の一点で、そこから売買方法・価格の決まり方・コストの形が枝分かれする。ETFは株と同じようにリアルタイムで売買でき、投資信託は1日1回の基準価額で取引される。どっちが優れているという話ではない。

どうも、金融ITの現場で働くサル、さるちゃんです。「投資信託 ETF 違い」で調べると、いきなり「ETFのほうが信託報酬が安い」みたいな比較から始まる記事が多い。でもね、それは結果であって理由じゃない。遠回しはナシだ。ズバッといくよ。

この記事では、日本取引所グループ(JPX)と投資信託協会という公式の情報源に書いてある内容だけを使って、両者の違いを仕組みから整理する。特定の商品は一切すすめないし、どっちを買うべきかも決めない。判断材料だけ置いていく。

結論:「器」は同じ、「売り場」が違う

まず大前提から。投資信託は、多くの投資家から集めたお金をまとめて運用し、その成果を分け合う仕組みだ。そしてETF(Exchange Traded Fund)は、投資信託協会の説明によれば「証券取引所に上場し、株価指数などに代表される指標への連動を目指す投資信託」。つまりETFは投資信託の一種で、対立する別ジャンルではない。

違いは「上場しているかどうか」から生まれる。上場しているということは、株と同じ売り場(取引所)に並ぶということだ。JPXも「ETFは取引所に上場していますので、通常の投資信託とは異なり、リアルタイムで変動する市場価格でお取引いただけます」と説明している。この一点が、以降のすべての違いの出発点になる。

売買の流れが違う 一般的な投資信託(非上場) あなた 販売会社(証券・銀行) 運用会社 価格は 1日1回の 基準価額 注文時点では価格が確定していない ETF(上場投資信託) あなた 証券会社 取引所(他の投資家と売買) 価格は リアルタイムの 市場価格 成行・指値で値段を指定して注文できる

違い1:価格の決まり方と、注文のタイミング

一般的な投資信託は、その日の取引が終わってから資産を評価し、1日1回だけ基準価額が算出される。だから注文するときは値段が分からない。JPXの比較表でも、通常の投資信託の発注方法は「基準価格がわからない状況で購入・換金」と表現されている。

一方ETFは、取引所の立会時間中ならリアルタイムで値段が動き、株式と同じく成行・指値で注文できる。「この値段以下なら買う」という指定ができるわけだ。

ここで注意してほしいのが、ETFには基準価額と市場価格という2つの価格があること。JPXは「その市場価格は需給状況によって変動するため、基準価額等と市場価格の値動きが一致しない場合もあります」と明記している。とくに投資対象が海外市場で、その市場が休場しているときなどは、乖離が広がったまま続くことがあるとも説明されている。

「上場していて自由に売買できる」ことの裏返しとして、需給によって理論値からズレうる。これはETF特有の論点で、非上場の投資信託にはない性質だ。

違い2:買える場所

投資信託は、その商品を取り扱っている販売会社(証券会社や銀行)でしか買えない。同じファンドでも、A銀行では買えてB銀行では買えない、ということが普通に起きる。JPXの比較表でも、通常の投資信託の販売会社は「特定の取扱証券会社、銀行」と書かれている。

ETFは上場しているので、JPXの説明では「株式と同じように、全国の証券会社を通じて購入、売却が可能」。ただし銀行の窓口では買えない。どこで口座を持つかという話はNISA口座はどこで開くべき?仕組みで見る金融機関選びのポイントにまとめてあるので、そちらも参考にどうぞ。

違い3:コストの形

コストは「安い・高い」よりどこで何がかかるかで捉えたほうが正確だ。投資信託協会は、投資信託のコストを次の3つに整理している。

  • 購入時手数料:購入時に販売会社へ直接支払う。申込価額の数%。かからない「ノーロード」の商品もある。
  • 運用管理費用(信託報酬):保有している間、保有額に応じて日々かかる。信託財産から差し引かれるので、間接的な負担になる。年率が目論見書に記載されている。
  • 信託財産留保額:解約時などに差し引かれ、販売会社ではなく信託財産に残るお金。差し引かれない商品もある。

ETFの場合、JPXの説明では投資家が負担するコストは2つ。売買時に証券会社へ払う手数料(株式と同様)と、信託報酬だ。信託報酬は「あらかじめ運用会社により年率で定められ、日割り計算した割合で日々信託財産から差し引かれ」るとされている。

コストがかかる「場所」の違い 出典:投資信託協会「投資信託のコスト」、JPX「よくあるご質問(上場商品)」 投資信託 購入時手数料 信託報酬(日々) 信託財産留保額 ※無料の商品も ※信託財産から控除 ※ない商品も ETF 売買委託手数料 信託報酬(日割り) 売買委託手数料 ※買うとき ※信託財産から控除 ※売るとき 購入 購入 解約 売却

信託報酬の水準について、JPXは「ETFの信託報酬は、非上場の公募投信に比べて一般的に低い水準となっています」と説明している。JPXが公開している比較表では、ETFが0.060%〜0.950%、通常の投資信託が0.100%〜1.650%という数字が挙げられている。

比較項目ETF(上場投資信託)一般的な投資信託(非上場)
販売会社全国の証券会社特定の取扱証券会社、銀行
取引価格リアルタイムで変動する市場価格1日1回算出される基準価額
取引可能時間取引所の立会時間販売会社が決める時間中
発注方法成行/指値価格が分からない状態で購入・換金
信託報酬(JPX集計)0.060%〜0.950%0.100%〜1.650%
信用取引可能不可能
最低投資金額の目安銘柄ごとの売買単位。多くは数千円〜数万円商品により少額の積立設定が可能

※信託報酬のレンジはJPXが「投信総合検索ライブラリー」からインデックス運用型の投資信託を集計したもので、同社サイトの当該ページは2017年8月更新の情報。実際の水準は商品ごとに異なる。

さるちゃんの本音
ここ、ちゃんと言っておきたい。この比較表の集計は2017年8月時点のものなんだよね。低コスト競争が進んだ今は、実際の水準はこのレンジと違っている可能性が高い。「公式が言ってるから今も正しい」とは限らない。数字はウソをつかないけど、ウソをつくのは数字の"鮮度"だ。最終的には、あなたが買おうとしている商品の目論見書に書かれた年率を見るしかない。

NISAではどちらも使えるのか

制度上の扱いも整理しておく。金融庁の説明によると、2024年からのNISAにはつみたて投資枠(年間120万円)成長投資枠(年間240万円)があり、併用すると年間360万円まで。非課税保有限度額は全体で1,800万円、うち成長投資枠は1,200万円が上限とされている。

対象商品は枠によって違う。つみたて投資枠は、信託期間20年未満・毎月分配型・デリバティブ取引を用いた一定の投資信託などが除外された商品が対象。成長投資枠は、整理・監理銘柄や同様の除外条件に当たるものを除いた投資信託とETFが対象になる。

つまり「ETFはNISAで買えるのか」の答えは、制度上は買える。ただし実際に買えるかどうかは金融機関の取り扱い次第で、対象商品のリストは金融機関ごとに違う。ここは口座を開く前に確認したいポイントだ。NISA自体の仕組みはNISA口座の記事で扱っている。

どちらが向いている?——条件で整理する

この記事では「どっちを買うべき」とは言わない。投資判断は人それぞれの事情によるし、ボクは助言できる立場にない。代わりに、公式情報から読み取れる条件の対応関係だけ並べておく。

  • 売買のタイミングを自分で決めたい → リアルタイム価格と指値が使えるのはETF側の特徴。
  • 毎月自動で同じ金額を積み立てたい → 少額での積立設定は非上場の投資信託のほうが対応している商品が多い。ETFは売買単位があるため、端数の調整が難しいケースがある。
  • 銀行の窓口で相談しながら買いたい → ETFは証券会社経由のみ。銀行では買えない。
  • コストをできるだけ抑えたい → 信託報酬はETFが一般に低めとされるが、売買のたびに委託手数料がかかる。頻繁に売買するなら合計コストは変わってくる。

要するに、「まとまった額を自分のタイミングで動かす人」と「少額を淡々と積み上げる人」で、相性のよい器が違うということだ。買い方の考え方についてはドルコスト平均法とは?メリットと注意点分散投資とは?「卵は一つのカゴに盛るな」の意味もあわせてどうぞ。元本の扱いが気になる人は個人向け国債は元本割れしない?も読んでおくと、リスクの位置関係が見えやすくなる。

よくある質問

ETFは投資信託とは別の商品ですか?

別ジャンルではない。投資信託協会はETFを「証券取引所に上場し、株価指数などに代表される指標への連動を目指す投資信託」と定義している。つまりETFは投資信託の一種で、上場しているタイプのもの、という関係になる。

ETFの価格は基準価額と一致しますか?

一致しないことがある。JPXは、ETFの市場価格は需給状況によって変動するため、基準価額等と市場価格の値動きが一致しない場合があると説明している。とくに投資対象の海外市場が休場している場合などは、設定・交換が止まることで乖離が続くことがあるとされている。取引の前に各管理会社の公表情報も確認したい。

どちらがコストは安いのですか?

信託報酬はETFが一般的に低い水準とJPXが説明している。ただし投資家が負担するコストは信託報酬だけではない。ETFは売買のたびに証券会社への委託手数料がかかり、非上場の投資信託には購入時手数料や信託財産留保額がかかる商品もある。合計でいくらかかるかは、商品と売買回数によって変わる。

NISAではどちらも買えますか?

制度上は、成長投資枠で投資信託とETFの両方が対象になる(除外条件に該当するものを除く)。つみたて投資枠は、信託期間20年未満や毎月分配型などを除いた商品が対象。ただし実際に何を買えるかは金融機関の取り扱いによるため、口座を開く前に対象商品リストを確認するのが確実だ。

まとめ

もう一度整理する。ETFは投資信託の一種で、違いの出発点は取引所に上場しているかどうか。そこから、価格の決まり方(リアルタイムの市場価格か、1日1回の基準価額か)、買える場所(証券会社のみか、銀行も含むか)、コストの形(売買手数料+信託報酬か、購入時手数料+信託報酬+信託財産留保額か)という3つの違いが生まれる。

そして忘れてはいけないのが、ETFには市場価格と基準価額の乖離という固有の論点があること。「上場していて自由に売れる」ことの代償として、需給の影響を受ける。優劣ではなく、性質の違いとして押さえておきたい。数字を見るときは、必ず商品ごとの最新の目論見書で確認してほしい。

コストの差が長期でどれだけ効くのかを金額で試算した記事も用意した。0.1%の違いを20年分に引き伸ばすと何が起きるかは、信託報酬0.1%の差は20年でいくら?月3万円積立で試算で確認してほしい。

出典・参考データ

※本記事は制度と仕組みの解説であり、特定の商品の購入を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。制度や手数料は改定される場合があるため、最新情報は各公式サイトでご確認ください。

この記事を書いたサル: さるちゃん
金融ITの現場で働くエンジニア。基本情報技術者・簿記2級・証券外務員一種ほか、働きながら資格を取ってきた実体験と、公式データをもとに「ズバッと分かる」解説をお届け。→ さるちゃんって何者?(プロフィール)

さるちゃんのズバッと結論
個人向け国債は「額面100円につき100円で買い戻す」と国が決めているから、価格が下がって元本が削れることはない。中途換金でも同じだ。ただし発行後1年間は原則換金できないし、換金時は直前2回分の利子相当額が差し引かれる。「元本割れしない」は本当。「絶対に損しない」は言いすぎ。ここを混ぜて語る記事が多すぎる。

どうも、金融IT企業でエンジニアをやってるサル、さるちゃんです。金利がじわじわ上がってきて、「個人向け国債」という言葉を久しぶりに見た人も多いはずだ。ネットを見ると「元本保証」「絶対に減らない」みたいな説明が並ぶ。遠回しはナシだ。ズバッと言うと、その説明は半分正しくて、半分は説明不足。この記事では財務省の公式資料をもとに、仕組み・実際の利率・そして省略されがちな注意点を整理する。特定の商品をすすめる記事ではないので、そのつもりで読んでほしい。

個人向け国債の基本的な仕組み

個人向け国債は、国が個人向けに発行している債券だ。お金を国に貸して、半年ごとに利子を受け取り、満期になったら額面が戻ってくる。ここまでは普通の債券と同じ。個人向け国債が他と違うのは、買い戻す値段があらかじめ決まっている点にある。

財務省の商品概要によると、償還金額は額面金額100円につき100円。そしてカッコ書きで「中途換金時も同じ」と明記されている。つまり、途中でやめても元本部分は目減りしない設計だ。購入は最低1万円から1万円単位、発行は毎月(年12回)、利子の受け取りは半年ごとに年2回となっている。

変動10年・固定5年・固定3年の違い

種類は3つ。ざっくり言えば「金利が動くか、動かないか」と「満期までの長さ」の違いだけだ。

項目変動10年固定5年固定3年
満期10年5年3年
金利タイプ変動金利(半年ごとに見直し)固定金利固定金利
金利の決め方基準金利×0.66基準金利−0.05%基準金利−0.03%
金利の下限0.05%(年率)。上限はなし
購入単位最低1万円から1万円単位
償還金額額面金額100円につき100円(中途換金時も同じ)
中途換金発行後1年経過すれば、いつでも国の買取により可能
2026年8月募集分の
表面利率(年)
1.87%
(税引後1.4901095%)
2.06%
(税引後1.6415110%)
1.71%
(税引後1.3626135%)

※利率は財務省「現在募集中の個人向け国債・新窓販国債」(令和8年8月5日現在)。募集期間は令和8年8月6日〜31日、発行日は令和8年9月15日。利率は毎月の募集ごとに変わるため、購入時は必ず財務省の最新ページで確認を。

面白いのは、今は固定5年(2.06%)が変動10年(1.87%)より高いという点だ。「長く貸すほど金利が高い」という直感に反する。理由は金利の決め方にある。変動10年は基準金利に0.66を掛ける方式なので、基準金利が上がっても掛け目のぶん抑えられる。一方で固定5年・固定3年は基準金利から0.05%・0.03%を引くだけだ。金利上昇局面では、この差が逆転として表に出てくる。

なお変動10年の掛け目方式は、平成23年7月発行分から導入されたもの。それ以前は「基準金利−0.80%」という引き算方式で、低金利時に利率が下がりすぎるのを防ぐために見直された、と財務省は説明している。

「元本割れしない」と言われる理由

ここが本題だ。なぜ個人向け国債だけ「元本割れしない」と言われるのか。答えは市場で売らなくていいからである。

普通の債券は、途中で現金化したければ市場で誰かに売る。売値はそのときの市場価格だから、金利が上がっていれば価格は下がり、売却損が出る。ところが個人向け国債は、市場ではなく国が額面100円につき100円で買い取ってくれる。相手が市場ではなく国だから、価格変動のリスクを負わずに済む。これが「元本割れしない」の中身だ。

同じ「国債」でも、途中で現金化するときの値段が違う 100円 時間(金利が動く) 新窓販国債:市場価格で売却 →100円を下回れば売却損 個人向け国債:国が額面100円につき100円で買取 ※縦軸は換金したときに戻ってくる金額のイメージ(実際の値動きを示すものではありません)

ここで大事なのは、「国債だから安全」ではなく「個人向け国債という商品設計だから価格変動がない」ということ。同じ国が発行していても、後述する新窓販国債は市場で売るので元本割れがありうる。混同されやすいポイントなので、後半でもう一度触れる。

さるちゃんの本音
「元本保証」って言葉、ボクは引っかかる。財務省の資料に書いてあるのは「償還金額は額面金額100円につき100円(中途換金時も同じ)」という事実であって、「保証」という言い方じゃない。似てるけど別物だ。元本が減らないのは商品設計の結果で、そこには1年間換金できないという交換条件がくっついている。都合のいい部分だけ切り出して「保証」と呼ぶのは、説明としてフェアじゃないよね。

省略されがちな注意点は3つ

(1)発行後1年間は原則として換金できない

財務省は「発行後1年経過すれば、いつでも中途換金が可能」と書いている。裏返せば、最初の1年は原則として現金化できないということだ。近いうちに使う予定のあるお金を入れると、必要なときに引き出せない。ここは銀行預金との決定的な違いになる。

ただし例外がある。財務省の注記によると、災害救助法の適用対象となった大規模な自然災害で被害を受けた場合、または保有者本人が亡くなった場合には、1年を待たずに中途換金できる。

(2)中途換金では直前2回分の利子相当額が差し引かれる

1年を過ぎて換金するときも、無条件でそのままではない。財務省の商品概要にはこう書かれている。「直前2回分の各利子(税引前)相当額×0.79685が差し引かれます」。この0.79685という数字は、利子を受け取るときに20.315%の税金が引かれているための調整だ(1−0.20315=0.79685)。

言葉だとピンと来ないので、実際に計算してみる。2026年8月募集の固定5年(表面利率2.06%)を100万円分買って、2年後に中途換金したケースだ。

100万円・固定5年(2.06%)を2年で中途換金したら? 財務省公表の利率と計算式にもとづく試算(円未満は概数) 2年間で受け取る利子 約32,830円 (税引後・半年ごと4回分) 中途換金調整額 約16,415円 (直前2回分×0.79685) = 手元に残る利子 約16,415円 (受取額のおよそ半分) 元本1,000,000円は全額そのまま戻る(額面100円につき100円) 差し引かれるのは利子の一部だけで、元本が削られることはない 計算の内訳:半年分の利子(税引前)=1,000,000円×2.06%÷2=10,300円 税引後の半年利子=10,300円×0.79685≒8,207円 → 4回で約32,830円 中途換金調整額=10,300円×2回分×0.79685≒16,415円

結果はこうだ。元本100万円は満額戻る。ただし2年で受け取った利子のおよそ半分が消える。感覚としては「直近1年分の利子を返す」に近い。損得で言えば、元本は割れないが、期待していた運用成果は目減りする。「元本割れしない」と「損しない」が違う、というのはこういう意味だ。

(3)物価が上がれば、お金の価値は目減りしうる

3つ目は、商品の外側にある話。額面の金額が減らないことと、その金額で買えるモノの量が減らないことは、別の問題だ。物価上昇率が受け取る利率を上回る期間があれば、金額は増えていても購買力は下がる。これは個人向け国債に限らず、現金や預金を含むすべての「円建てで金額が固定される資産」に共通する論点である。

ここは断定を避けたい。将来の物価や金利がどう動くかを当てられる人はいないし、この記事は投資判断を促すものではない。ただ「元本が減らない=価値が減らない」ではない、という区別だけは知っておいたほうがいい。日本の物価水準そのものについては日本の物価は世界と比べて本当に安いのか?『安いニッポン』をデータで検証する国際比較で扱っている。

同じ「国債」でも新窓販国債は元本割れしうる

ここを混同している人がかなり多い。国が個人でも買える形で出している国債には、個人向け国債のほかに新型窓口販売方式国債(新窓販国債)がある。財務省の同じページに並んで掲載されているのだが、性質はまるで違う。

財務省の説明では、新窓販国債の中途換金は「市場でいつでも売却が可能です。ただし、その時々の市場価格となるため、売却損、売却益が発生します(元本割れのリスクあり)」と明記されている。一方の個人向け国債には「(元本割れのリスクなし)」と書かれている。公式が同じページで、わざわざ書き分けているわけだ。

もうひとつの違いは募集価格。個人向け国債の募集価格は額面100円につき100円ちょうどだが、新窓販国債は回号によって変わる。たとえば令和8年8月募集分の10年債は募集価格99円32銭、2年債は100円10銭と、額面と一致していない。つまり買った時点で額面との差がある。

「国債」という言葉だけで判断すると、この違いを見落とす。金利そのものの動きが気になる人は、住宅ローン、変動金利と固定金利どっちが得?仕組みで比較も合わせて読むと、変動と固定の考え方が整理しやすい。

銀行預金とどう違うのか

「じゃあ定期預金とどっちがいいの?」という疑問が当然出てくる。ここは正直に言うと、単純比較はできない。性質が違うからだ。事実として整理できるのは次の点になる。

  • お金を預ける相手が違う:個人向け国債は国に貸す。預金は金融機関に預ける(預金保険制度による保護の枠組みがある)。
  • 途中で引き出せるかが違う:預金は満期前でも引き出せるものが多い。個人向け国債は発行後1年間は原則不可、その後も利子の調整がある。
  • 金利の決まり方が違う:個人向け国債の利率は財務省が毎月公表し、下限0.05%が保証されている。預金金利は金融機関ごとに設定され、商品や期間で幅がある。

金額の有利・不利は、そのときの預金金利と国債の利率、そしてどれくらいの期間置いておけるかで変わる。この記事では「どちらが得か」の結論は出さない。最新の預金金利は日本銀行が公表している統計で確認でき、国債の利率は財務省のページで毎月更新される。両方を見比べてから判断するのが筋だ。金融機関の選び方という観点では、NISA口座はどこで開くべき?仕組みで見る金融機関選びのポイントで整理した考え方が参考になるかもしれない。外貨で持つ選択肢との違いは外貨預金は今から始めるべき?仕組みとリスクをわかりやすく解説にまとめた。

よくある質問

個人向け国債は誰でも買えますか?

購入できるのは個人に限られる。財務省によると購入単位は最低1万円から1万円単位で、発行は毎月(年12回)行われている。実際の購入手続きは取扱金融機関を通じて行う形で、令和8年8月募集分では873機関が取り扱っていると財務省が公表している。

本当に元本割れしないのですか?

財務省は償還金額を「額面金額100円につき100円(中途換金時も同じ)」と定めており、市場価格で売る必要がないため額面での元本割れは生じない設計になっている。ただし中途換金の際は直前2回分の各利子(税引前)相当額×0.79685が差し引かれるため、受け取れる利子は減る。元本が減らないことと、損得がゼロであることは別の話として理解しておきたい。

いつでも解約できますか?

発行後1年が経過すれば、いつでも国の買取による中途換金ができる。逆に発行後1年間は原則として換金できない。例外として、災害救助法の適用対象となる大規模な自然災害で被害を受けた場合や、保有者本人が亡くなった場合は、この期間に関わらず中途換金が認められている。

金利はどれくらいですか?

発行のたびに変わるため、購入時に財務省の公式ページで確認する必要がある。令和8年8月5日時点で募集されていた回号の表面利率は、変動10年が年1.87%、固定5年が年2.06%、固定3年が年1.71%だった。なお個人向け国債にはすべての種類に年0.05%の金利の下限が設けられており、上限はない。利子を受け取る際には20.315%の税金が差し引かれる。

まとめ

結論をもう一度。個人向け国債は、額面での元本割れがない設計。ただし「絶対に損しない」ではない。押さえるべきは3点だ。

  • 国が額面100円につき100円で買い取るため、市場価格の変動を受けない(中途換金時も同じ)
  • 発行後1年間は原則換金できず、その後の中途換金では直前2回分の利子相当額が差し引かれる
  • 同じ国債でも新窓販国債は市場売却のため、財務省自身が「元本割れのリスクあり」と明記している

数字はウソをつかない。ウソをつくのは数字の"見せ方"だ。「元本保証」の4文字だけを見て決めるんじゃなくて、その裏にある1年ルールと利子の調整までセットで理解してほしい。そこまで分かったうえで自分に合うかどうかを決めるのは、あなた自身だ。

出典・参考データ

この記事を書いたサル: さるちゃん
金融ITの現場で働くエンジニア。基本情報技術者・簿記2級・証券外務員一種ほか、制度と数字を一次情報から読み解いて「ズバッと分かる」解説をお届け。→ さるちゃんって何者?(プロフィール)

本記事は制度の仕組みを解説するものであり、特定の金融商品の購入や投資を勧誘するものではありません。金利・制度の内容は変更される場合があるため、実際の判断にあたっては財務省および取扱金融機関の最新情報をご確認ください。

そもそも「国が発行している国債の総額」がどうなっているのか気になった人は、「国の借金1346兆円」は危険?IMF・日銀データで誤解を3つ整理もあわせて読んでみてください。国債を持っているのは誰なのか(日本銀行が47.9%)、利払いは本当に膨らんでいるのかを、財務省と日銀のデータで整理しています。

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